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宮廷物語  作者: 卯月弥生
第三章 三人の紡ぎ人候補と二人の姫
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紅姫と庭師

 『冬の殿』も秋の色が濃くなった。

 紅姫は見晴台から里を眺め、里の木々がどんどん色づいてきているのを見て、冬が近づいてきていることを目で、そして風が冷気をおびていることを肌で感じていた。

 この殿の木々も、ある木は紅葉し、ある木は緑色のまま殿を彩っていた。

 紅姫は厚い外羽織を体にかけると、桂の制止も聞かずに庭に出た。そして、まだ黄色と薄紅色の花を咲かせている花の集まりを眺めた。

「そなた」

 大柄な庭師は自分に声がかかっているとは気が付かず、黙々と庭の木々の、冬ごもりの作業を続けていた。

「姫様、そのような下々の者に声をかけるのは…」

 桂が紅姫の行動に、嫌悪の表情をあらわにした。

「良いのじゃ。私は話したい者と話す」

 紅姫は再び桂の制止を無視し、もう一度、庭師の男に声をかけた。

「そなた、近くへ」

 もう一度大きな声で紅姫は声をかけたが、やはり男は振り向かず、仕方なしに侍女の桂が大声を上げ、庭師はやっと自分に声がかけられていることに気が付き、あわてて姫の侍女たちよりは姫様から下がった位置まで走り寄り、ひれ伏した。

「はっ」

「確か名は金剛(こんごう)と言ったな」

 金剛は、まず姫様が自分に声をかけたことに、そして次は自分の名を知っていることに、それから仮に何かの機会に、姫様が自分の名を聞くことがあったとしても、覚えていることに、頭が真っ白になった。

「はっ、金剛と申します」

 その結果、ただただ自分の名前を繰り返す返答になったのだった。

「この黄色と紅色の花は、金香草(きんかそう)とかいったな。いつも美しく手入れをしてくれてありがとう」

 姫様からの直接の褒めの言葉に、金剛は言葉を失った。

「金剛!」

 桂の言葉には「なにか返答をせぬか」という意味を含んでいることに気が付き、我に返った金剛は、なんとか言葉が口から出てきた。

「あっ、ありがたき幸せでございます」

 頭を地面にすりつける金剛。

「金剛よ、頭を上げよ」

「姫様!」

「桂、何度同じことを言わせる…いいのじゃ」

 その、でかい図体には似合わず、金剛は恐る恐る頭を上げた。

 そこには、手を伸ばせば触れることの出来そうな距離に、世にも美しく、神々しい紅姫の姿があった。なんと…!自分とは同じ生き物とは思えない…そうだ、紅姫様はやはり神の血をひいていらっしゃる…金剛はそう感じた。

 何人かの侍女が、こらえきれずに含み笑いをもらした。

 金剛は醜男(しこお)であった。

 しかし、紅姫と金剛の間には不思議な空気が流れており、二人には侍女たちの笑い声などは、耳には入っていないようだった。

「そなたも大変じゃのう…生き物を育てたり、そして時には奪ったり…いつも…いつも、庭で働くそなたを見るたびに思っていた」

 金剛は初め、それは雑草むしりや枝の剪定(せんてい)など、庭の管理のことを差しているのかと思った、が、紅姫の表情を見て、そこにはもっと深い想いが、その言葉に込められていることに気がついた。

(このお方は……!!)

 金剛は悲鳴すら上げそうになった。

(このお方は私が庭師の他に、この国の処刑人だということも知って、お声をおかけになってくれたのだ!!)

 金剛にはもう一つの職務があった。

 『木ノ国』は他国と比べ、犯罪は少ない国であったが、それでも罪人は出る。時に死罪の宣告を受け死刑になる者もいる。その場合の処刑が金剛のもう一つの職務であったのだ。

 忌み職として、金剛に非は何一つなかったが、どことなく、人に避けられることがあるように金剛には感じられる時があった。もしかしたら、それは自分の醜さからきているのかもしれないと悩んだこともあったが、金剛に出来ることはため息をつくことと、庭の手入れをすることだけだった。

(買い物一つする時でさえ、時には侮蔑の眼差しで見られることもあるこの私に…)

 紅姫の眼差しは、どこまでも優しかった。

 それは金剛が嫌う同情とも違って、紅姫様の言葉からは、ただ感謝の気持ちと、ねぎらいを金剛は感じた。

「仕事の邪魔をして悪かった。これからもよろしく頼む」

 再び金剛は頭を下げ、しばらくの間、紅姫一行が宮殿に入ったあとも、面をあげられなかった。涙がとめどなくこぼれ落ちるからだった…

(いつか、あの方の為に俺は命を使おう)

 金剛が心にそう誓った瞬間でもあった。 

 しかし、そのことは表に出してはいけない。そう、誰が敵で、誰が味方なのかわからないのが宮中なのだから。


 使用人宿舎が集まっている、宮殿の裏側。金剛が自分の部屋の扉を開けようとすると、向かいのゴミ捨て場に、日陰とかいう男が捨てられていた椅子に座って、ぼんやりと空を眺めているのが見えた。

 確か馬番を手伝っているとかと聞いたが…

(おかしな奴だ)

 金剛は笑顔で日陰を眺めると、自分の部屋の扉を開けた。


すっかり春です。あっ先週も同じことを書いたような気がします。

いつもは次回予告をしているのですが…ネット環境を借りている友人の転勤により、

掲載予告がしばらくの間出来ません。申し訳ありません。

そもそも極貧の為、自宅にネット環境がないのが大問題なのですが(笑)

続きも読んで下さるという皆様、ユーザー登録されている方は、しおり機能などで掲載を知っていただけますと助かります。他の方法でご覧の皆様、お手数をおかけしてしまいまして大変申し訳ございませんが、ご確認のほど、よろしくお願いいたします。

(出来るだけ早く良いネット環境を探します)ではまた。


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