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宮廷物語  作者: 卯月弥生
第三章 三人の紡ぎ人候補と二人の姫
20/63

白姫と『木ノ国』の歴史

紡ぎ人候補たちが集まり、鉄火が紡ぎ話を披露していたその時、

白姫は宮中の一室にて…


「まったくもって、つまらぬのう」

 白姫は窓の外に目をやった。

「なにを、あのように集まっているのだ?」

「あぁ『紡ぎ人』の選考中なのでは?」

 円卓を挟んで、向こうに座っていた紫雲は興味なさげに答えた。

「なかなか面白そうではないか、私も行ってみるかな?」

「今日は日差しが強いです。肌を痛めますよ」

「傘をさせば少しくらい平気じゃ」

 白姫は窓の外ばかり見ている。

 紫雲はため息をついた。白姫が本気で外に出たいと思ってはいないことは承知だった。

(まったく、この方はこの国について興味がないのだろうか?)

 そのうち東屋からは、人がばらばらに散って行った。

「なんじゃ、終わったようじゃな…つまらんのう」

 白姫は椅子に座っていて、足をぶらぶらさせた。

 紫雲は初め、皇位継承権第一位の白姫の第一政務官になれると知った時、舞い上がる自分の気持ちを抑えきれなかった。このまま白姫に付き続けることが出来れば、副大臣、大臣と、役職は上がっていく。そして、いずれは実質この国を動かすことができるようになると。

 …しかし時が経つにつれ、白姫が皇位を継ぐことに疑問を持つようになってきた。もちろんそんなことはおくびにもだせない。

 だが、もし紅姫に自分が付くことが出来れば…そして白姫を上手くこの国から追い出し、黄玉帝が崩御すれば…

「紫雲…紫雲!!」

 白姫に大きな声で呼ばれ、紫雲は我に返った。

「さっきまでは、話を聞けとうるさかったくせに、今度はお前がぼんやりか」

「申し訳ございません。では話しの続きを…」

 今日、二人は『木ノ国』の歴史について勉強していた。

『黄行年(おうこうねん)967年に我が『木ノ国』と『鉄ノ国』にて戦争が起こりました。通称『鉄木戦争』と呼ばれています。今からちょうど三十一年前ですね。『鉄ノ国』が我が国の豊富な鉄資源…鉱山に目をつけ、以前から取引はあったのですが、次第に二国間での鉄の値が上手く定まらなくなり『木ノ国』が『鉄ノ国』より夜襲をうけたのが、その年の夏でした』

 紫雲が白姫のほうを見ると、頬杖をついたまま窓の外に顔を向け、はたして起きているのか寝ているのか…

『我が国と『鉄ノ国』に挟まれる位置にある『水ノ国』は戦いの初めより、中立を宣言し、路の通行、物資の確保等に関しても、両国に均等に許可と配備をし、必要な場合は与えた。

戦いは、製鉄に通じている『鉄ノ国』の作り出す武器の数々、そして、戦うということに慣れていた…その三年前まで、『火ノ国』と十年戦争を続けていた『鉄ノ国』が有利になり、このまま『鉄ノ国』の勝利で終わるのかと思われていたが、窮鼠猫を噛む。『木ノ国』の奇襲が成功し、両国の戦況はかなり拮抗したのでした。

その時、当時の『水ノ国』の王であり、今も名君として名の知られている『康家徳(こうけとく)王』がお互いの国に和解を進言。疲弊し始めていた両国は、条件付きで和解を受け入れ、一年と半月で終戦をむかえたのでした』

 教本から目を上げた紫雲は、白姫が自分を凝視しており、その瞳には意外なほどの嫌悪が浮んでいることに驚いた。

「姫様、どうかいたしましたか?」

「…康家徳は名君なのか?」

「一般的にはそう言われておりますが」

「ふーん」

『かねてより当番により『財ノ国』の山々の材質調査を『水ノ国』は『土ノ国』へ依頼し、その調査報告もこの戦争を終結させた大きな理由の一つになるでしょう。実は『財ノ国』にこそ鉄資源が多く眠っており、良い鉱山が見つかったのです。これにより『鉄ノ国』は製鉄の原料に欠くことはなくなり、我が国は以前のように田畑を中心とした、稲作と織物によって国益を得る生活に戻ったのです。以上が『鉄木戦争』についてでしたが、まず、姫様に大きく歴史をご理解していただこうと、細かい部分ではお話していない部分もございます。もし、教本をごらんになって、ご興味がわいた点、ご質問したい点がございましたら、次回、細かくお話させていただきたいと思います』

 白姫は紫雲に答えるというよりは、心は別にあり、その赤眼(あかまなこ)で紫雲を見つめて言った。

「今、我が国は六カ国のうちで、国力は四番目だ。『鉄木戦争』が起こるまでは、国力は二番目だったな」

「それが?」

「敗戦こそは免れたが、現在『財ノ国』の鉱山を管理しているのは、『鉄ノ国』と『水ノ国』だ」

「はい」

「もし、おまえが『水ノ国』の者だったら、『財ノ国』の鉱山のことはいつ口外する?」

「…なるほど」

「上手くすれば、『木ノ国』と『鉄ノ国』が潰し合う可能性もあった。しかし、両国間だけで和睦が成立すれば『水ノ国』にうまみはない。この戦いを上手く利用したのだろう?『水ノ国』は。昔から、父上は『水ノ国』の者を嫌っていた。あの者たちは狡猾だと。あの者たちは『鉄木戦争』がおこる以前に『土ノ国』から調査結果を受け取っていたに違いないと…これは父上から聞いたのだが」

 紫雲はうなずいた。

「必ずしもありえないことでは、ありません…が、今となっては可能性でしかありえません。そのことで『水ノ国』に悪い印象をお持ちになるのは、あまり発展的とは言思われませんが」

 白姫は、紫雲の助言を鼻で笑うと、

「お前は『土ノ国』の者で良かったな…まぁだからこそ私の側に置いておるのじゃろうが」

 白姫はそう言うと、

「疲れた」

 と勝手に席を離れ、侍女にお茶を頼み、色とりどりの座布団を積んだ山に、ドサりと体を投げ出したのであった。

「…国とは本当に面倒じゃのう…」

「なにか?」

「なんでもない」

 すると、扉も叩かずに入室してきた者がいた。黄玉帝が側近の者を引き連れてやってきたのであった。

「これは邪魔をしたかな?」

「邪魔などと、ちょうど白姫様は休憩されているところです」

「うむ」

「お父様―――」

 白姫は、子供のように黄玉帝にかけよりその腕の中に飛び込んだ。

 側の椅子に黄玉帝が腰をかけ、その膝の上に白姫をのせた。

「しっかりと学んでいるかね?」

「もちろんよ、お父様。『水ノ国』の人間について、私が紫雲に教えているくらいよ」

「うむ、さすがわしの娘じゃ」

 黄玉帝が白姫にほおずりをする。

 …十と四の皇女にすることだろうか?

 紫雲はいつの間にかに、二人の様子を、眉間にしわを寄せながら見ていた自分に気が付いて、あわてて笑顔をつくった。

「くれぐれもしっかり頼むぞ」

 そう黄玉帝は言い残し、まだ一緒に居るようにごねる白姫の頭を撫でると、白宮を出て行った。深く頭を下げる、紫雲に侍女たち。

 黄玉帝を見送る白姫。紫雲から見えているのは後ろ姿だった…が、

 その時、自分の頬を、まるで毒虫をはらうように、拭っている白姫が紫雲の目に入った。

 白姫は私に見られていると気が付いていない。

 これは…

 バタン。

 扉が閉まり、白姫がこちらを向きかけたので、紫雲は慌てて下を向き、礼を続けているふりをしたのであった。

読んでいただきありがとうございました。

春ですね。春の陽気を楽しむ反面、季節性による気分の変調

とでも言うのでしょうか?

気持ちが不安定になって困っている、今日この頃です。

皆様はいかがですか?

季節が変われば、気持ちも落ち着くので、それまで頑張り過ぎないように

頑張りたいです。ではまた。

次回は4月の4日金曜日15時に掲載予定です。


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