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宮廷物語  作者: 卯月弥生
第二章 紅姫
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白姫と紫雲

『五行の国』の成り立ちと、自分の過去を思い出していた月影。

しかし、今はそんな感慨にふけっている時間さえ月影にはなかったのであった…


 翌朝、月影は紅姫より呼び出しをうけ、午後からの政務会議に向けて、補足を受けた。

 しかし、本当に私に話したかったことは、昨日の報告会での『秋の神移り』の件では事前に私と相談をしておくべきだったということを、私に伝えたいのだと月影は感じた。

 …紅姫らしい、と月影は紅姫からの言葉の端々(はしばし)から感じる自分への敬意に、つい微笑ましくなり、笑顔になるのをこらえるのに一苦労したのだった。

 幼いながらも紅姫は必死なのだ。政務官の自分へ、民へ、政治へと。

 そして紅姫も月影のいつもと変わらぬ様子に、落ち着いて午後の会議にいどめそうだと思っていたのだった。


 赤宮を後にした月影は、ふと足を止め、宮廷内、遥か遠くまで続く廊下の先を見ていた。宮廷全体を正面から見ると、正面に構えているのが黄玉帝の帝宮(みかどみや)、その左側に赤宮、右側に白宮が配置されている。

 政務官たちの政務官室は帝宮の下階に位置している。政務官室内は、それぞれに仕える主たちによって区切られてはいるが、基本、一部屋になっていた。

 政務官室の扉に手をかけると、白姫(しろひめ)が紫雲(しうん)と女官たちを引き連れて歩いて来る様子が見えた。

 政務官室の前を通り過ぎる一行(いっこう)に、いや、正確には白姫に月影は深く頭を下げた。

 黄玉帝にでも会いに行くのであろうか。

 白姫は、十と四歳。小柄ながら、紅姫の涼やかな面(おもて)とは違い、はっきりしている顔立ちのせいか、不思議な迫力があった。

 そしてなんと言っても、その白さだ。紅姫と対極にいることをその名で示していると思っている民は多いが、白姫は本当に『白い』のだ。

 この世に産まれ出た時から、白い肌、白い髪、それなのに瞳だけは驚くほど赤く、ハッとするほど目を奪われる。

 白姫が生まれた時に、その相(そう)を占う占い師が、凶兆と結果を出し、今すぐにでもあの世へ返すべきだと進言し、占い師が逆にその場で切り捨てられた。

 占い師が凶兆と結果を出したのことに、白姫の容姿がかかわっていたかどうかは、もうわからないが、当時、白蓮がある政務官と、凶兆の結果を出した占い師について話していた時、白姫様の容姿は『アルビノ』というもので、多少健康に難はあるが、凶兆には直接は関係しない。しかし黄玉帝の白姫への愛情…思い入れの強さのほうが凶事を引き起こしそうだ…といったようなことを言っているのを耳に挟んだことがあった。

 白蓮と話していた政務官は『アルビノ』について詳しく知りたがっていたが、白蓮も誰かから聞いた話で、日の光に弱いとか、そのくらいのことしかよくわからないと言っていた。月影も初めて聞く言葉だったので、白蓮の言葉にがっかりしたことを覚えている。

 そして確かに、黄玉帝の白梅輝妃への愛情は深かった為、その娘であり忘れ形見になった白姫への愛情は常軌を逸することがあり、それは白姫が生まれた時から、今日まで変わることなく、いっそう深くなっているのであった。


 白姫の第一政務官である紫雲は、いつもながらの仮面のような面(おもて)で、私にむかって頭を下げた。紫雲は月影より七つほど年上の三十と八歳であったと、月影は記憶していた。細身のいかにも頭脳戦を得意としそうな、礼儀正しいが、どこか人を見下しているような雰囲気があった…これは武官あがりの月影のひがみも含まれていたが。

 無骨な月影と正反対で、美しい顔立ちをしていた。

 いかにも耽美趣味な白姫らしい人選だと、皆は裏で言っていたが、白姫付き第一政務官に選ばれたのは、それだけではないであろうことは、月影にはわかっていた。

(いつか、あの男とは相対することになるかもしれない…)

 しかしそれもまた楽しいであろうと、月影は心のどこかで期待していたのであった。


こんにちは。皆様お元気でいらっしゃいますでしょうか?

この度もごらんいただき、誠にありがとうございます。

次回は3月1日土曜日15時に掲載予定です。


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