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宮廷物語  作者: 卯月弥生
第二章 紅姫
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月影

紅姫から「秋の神移り」での特命を与えられた月影だったが、

それは神の血を引くと言われている木ノ国の帝筋(みかどすじ)が

行うことは禁忌とされていることだった。


 月影は夕日に照らされた、廷内の庭を歩いていた。

 精悍な顔つき、月影に良く似合った鉄紺(てっこん)色の衣に覆われている鍛え抜かれた体は、実際の体よりも大きな型で出来てきる衣装でも隠しようがなかった。

 肩まで伸びた青黒い髪が、さらさらと晩夏の花々の香りにのってなびいている。

「あら、月影さまだわ」

 紅姫従事の女官たちが黄色い声を上げる。

「素敵ねぇ」女官の一人から惚れ惚れとした声がこぼれた。

「そお?私は白姫付きの紫雲(しうん)様のほうが好みだわ~線が細くて、情緒的で…。月影様はもと武官だから、少々無骨で…恐い感じがする」

 女官たちの声はどんどん大きくなっていたが、月影の頭の中は紅姫からの話で占められていて、彼女たちの声は聞こえていないのであった。

 月影の年の頃は三十と一歳であった。まさか、十五も年下の少女にあそこまで圧倒されるとは思いもしなかった。いや、いつかあの姫様なら対等に論議をかわすことにはなるだろうとは思っていたが、こんなに早い時期だとは思っていなかったのである。

(しかし、面白くもある)

 月影はこの難局を、愉快にも感じていた。他の政務官の手前いかにも困ってみせたが、案自体は悪くない…どころか、良いと言ってもいいだろう。

「おや、月影殿。あなたも庭を散歩することがあるのですね」

 白髪の老人が、皮肉交じりの驚きの声をかけてきたことで、月影の思考は停止した。

「白蓮様ではありませんか…」

「なにか考え事でも?」

「えぇ。紅姫様からの難題について。その内容は白蓮様のほうがよくご存知では?」

「ふぉっふぉっふぉっ」

 白蓮がその枯れ木のような体を仰け反らせて笑うと、白檀の香りがふわりと広がった。

(たぬき…いや、このきつね爺(じじい)めが)

 心の中で月影は白蓮に毒づいた。

 今回の紅姫様の発言に、この爺が大きく関わっていることは明白だった。

 白蓮は月影にとっては、邪魔なことこのうえない存在だった。

 もし自分の部下である政務官僚か、上官であっても官僚内の一人だったら、うまいこと姫様から遠ざけることも出来るのだが…

 『紡ぎ人』である白蓮は政務官僚の組織には属しておらず、『紡ぎ人』とは紅姫様直属の特別な配下にある職務なのだ。

 紅姫様の案を面白いと思う反面、この爺が影にいることが月影には気に入らなかった。

 月影は白連に一礼し、その場をはなれたのだった。


この度も、読んでいただきまして、ありがとうございます。

次回は2月の21日金曜日15時に掲載予定です。


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