0話 最後の夜
「お前は強いのに怖がりだな」
「五月蝿い」
フードからはみ出たわずかな紅い髪をふるふると振ってその言葉を拒絶する。
その少年は強くならなければならなかった。
何故なら総長、所謂チームのNo.1であるからだ。
だが下っ端の中に強い奴がいる。
その下っ端は目の前にいる副総長よりも強い。
そして、少年をも抜いてしまいそうだった。
そんな下っ端が幹部にさえなれないのは、チームに加わって間もないためまだ人望がないからである。
余程のことがない限り強い者は人を惹きつけるのでその下っ端が近い将来総長となるだろう。
だがそれは揺るぎないことであったとしても未来のことであって現在の総長は少年である。
総長がメンバーよりも弱ければチームの面目丸潰れだ。
少年はそんなことでメンバーが嘲り笑われるようになるのは耐えられなかった。
「でも、それでいいんだ」
「え?」
もっと総長らしく何事にも堂々としろ、というような事をてっきり言われると思っていた少年は驚く。
そんな声は予想していたのか調子を変えずに言葉が続く。
「なんでお前の愛称をフェスにしたかわかるか?」
「フェネクスから単純に取っただけだろ?」
「半分アタリで半分ハズレだ」
だから怒るな、と言いた気にフードの上からわしゃわしゃと頭を撫でられる。
フードが落ちそうになり少しむっとするが、話の先が気になって怒る気にはなれない。
「じゃあ、なんでだよ」
「それは…」
「奴らが来たぞ!」
答えを遮るようにメンバーの声がする。
本人はその気がなかったのだろうが、間が悪い。
だがメンバーを放って話を続けるわけにもいかない。
「行くぞ、フェス!」
「おう!」
後で聞き直せばいいか、と少年は先に厄介事を片付けようとそちらへ向かう。
だが少年がその問いの答えを聞くことはなかった。