七曜の物語 火曜日の断罪者
皆が寝静まった真夜中。小さな影が町の屋根をかけていた。
よく目を凝らせばそれが人間の少女であるとわかる。
少女は、“火曜日の断罪者”を名乗っていて、毎週火曜の夜に不正を働いた貴族や役人を断罪して回っているのだ。
その方法はさまざまなのだが、少女の実態を知る者は例外なく死亡しているし、ターゲットにされた人物は例外なく“失踪”するのだから、その人物が何を見たのかという前に生死すらわからないといった状態だ。
ある人は、例外なく殺されどこかに埋められているといい、ある人は彼女が罪人とみなした人間はすべてどこかの島へ連れて行かれ労働させられているのだといい、またある人は異空間に引き込まれ死ぬ方がましという苦痛を味わされるといわれている。
そのいずれかが本当なのかは、少女とターゲットしか知らないし、彼女を追えば例外なく不可解な死を迎えることになる。
「つーいた」
そんな肩書とは裏腹に少女は笑顔を浮かべながら町はずれの洋館を見下ろす。
ここは、王都で権力をほしいままにし、賄賂を受け取れば罪人を無実とし何のゆかりもない人間を罪人に仕立て上げるといわれている男の別邸だ。
確かな筋からの情報では、男は向こう一週間ここに滞在するのだという。
これは、チャンスであった。
幸いにもここは人里から離れていて目撃される可能性が低いし、王都の本宅と違って警備兵が周りを警備しているといった様子も見てとれなかった。
「さぁて……どっからは言ってやりましょうか」
スカートの下に仕込んであるナイフの感触を確かめながら館を観察していく。
どうやら彼は、あまり警戒心がないらしくいくつかの窓はあいていた。門番に至っては、門に寄りかかったまま同等と昼寝している。
「へー入ってくださいって言ってるようなものじゃない」
少女はにやりと悪意に満ちた笑顔を浮かべた後、眠っている門番の横を通って堂々と館に侵入する。
「誰だ?」
突然、入ってきた少女に不信を抱いた男が肩に手を置こうとするが、その時にはすでに手が切り落とされていた。
「くっ! きっさまー!」
男が剣を抜くが、それをふるう前に首と胴体がさよならする。
「ごめんなさいね。急いでるの」
それだけ言って少女は館の奥へ入っていく。
少女が歩くたびに館も少女自身も紅色に染まっていき、ベットで寝ていた男のところにたどり着いたころには、館の中に生存者はいなかった。
「旦那様起きてください」
まるでメイドが起こしに来たかのように錯覚した男が体を起こせば血に染まった少女がこちらを見ながら薄気味悪い笑みを浮かべていた。
「だっ誰だ貴様は!」
「断罪者よ。貴様を断罪しに来た」
その声を聴いた直後、男の意識は闇へと沈んでいった。
その後、男がどこへ行ったのか知る者はいない。そう、彼の行方を知るのは断罪した本人のみだ。