天才と凡人 6
青年の言葉に一瞬黙りこむアルカナだったが、ぐいっと押しつけるようにハンカチを手渡した。
すでに、青年の手は血に染まっていたため渡した時点で血で汚れてしまっている。
そんな状態では返すわけにはいかなくなったのだろう、半ば無理矢理な形でハンカチを渡された青年だったが躊躇いながらもそれで傷口を押さえる。
真っ白なハンカチがみるみる血で染まっていく様子を、アルカナはじっと見つめていた。
「……お前名は?」
沈黙に耐えかねたのだろうか。突然男がそんなことを尋ねてきた。
血はまだ完全には止まっていないようだが、初めと比べると勢いはない。
「…名前…ですか?アルカナ・リクルートといいます」
特に隠す必要もないので、戸惑いながらもアルカナは名を名乗る。
名乗った瞬間、相手の整った眉が僅かに潜められた。
「アルカナ・リクルート?」
どこかで聞いた気が…。
そう小さくぼやき、思案気に黙り込む。
アルカナにその声は聞こえていたが、どうせユアンのことであろうと大して気にはとめなかった。
リクルートという姓が同じなのだからさして変なことではないだろう。
「えっと、あなたは?」
「…」
「……?」
アルカナが聞き返すと青年は口を閉ざす。
じっとアルカナを見つめる瞳からは困惑した様子がうかがえる。
言いたくないわけでもないようなのでアルカナが返事を待っていると、答えは思いもよらないところから返された。
聞き馴染みのある、男性にしてはやや高いよく響く声。
「そいつの名前はフェイト・カルナーダ。聞いたことあるよね」
「ユアン?」
声にびくりと反応し、恐る恐る振り返れば予想通りユアンの姿。
嫌に輝くほどの笑顔で笑ってはいるが、機嫌がすこぶる悪いことが読み取れる。
別にユアンの機嫌が悪いことなんてなんら珍しいことではないのだが、今回は機嫌が悪い理由が容易に思いつくため、アルカナはユアンを直視できない。
ユアンはコツコツと足音を立ててアルカナに近づき微笑んだ。
「さてアルカナ。説明してもらおうか。…なんで僕のあげたハンカチがそいつの血で汚されているわけ?」