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天才と凡人 5


朝早くアルカナは教室に着いた。

といのも、緊張のあまりはやく準備をしすぎてしまった。二度寝するのも惜しく感じられ、そのまま登校することにした。

誰もいない学校というのは酷く寂しく、そして何故か寒く感じる。

まだ春がきて間もない季節だ。ぽかぽか陽気の中ならともかく、今日は曇り。

かじかむ手を吐く息で温めながら教室のドアを開けた。


予想に違わず教室内は来るまでの道中と同じくして室内はしんと静まりかえっている。

クラスメイトが窮屈さを感じる余地のない不必要なほど大きな教室。

それを一人で独占していると思えば、早起きも悪くない。



どの席が一番前が見やすく、教師に見つかりにくいだろうか。

そんなことを考えながら座る席を考えていると、教室の隅に赤銅色の毛玉があるのを発見する。





「……?」




どうやら教室に来た1番手はアルカナではなかったらしい。

遠巻きに近寄ってみると赤銅色の髪を持った学生が眠っていた。




机の上に肘をつき、頭を乗せた非常に危なっかしい状態で。




性別は恐らく男性。男性の制服を着ているが、身体の線がとても細いので男装の女生徒の可能性も否定しきれない。

赤みがかった金髪をしていることしか分からないが、アルカナはこの人物を知らない。




取りあえず昨日の入学式では見かけなかった……気がする。






「……あ」




頭を支えている肘がぐらぐらとバランスを失いかけていた。

おそらく初めは意識があったのだろうが、今は完全になくて頭の体重を腕が支えることができていない。

そもそも人間の頭というのは重いし、大きい。意識のない人間が、腕一本で支えられるわけがない。


つまりこのままいくと、頭という体重のかかった肘が徐々に傾き、机からずり落ちる。



アルカナでも予測できる展開に思わず危険を伝えようとしたアルカナだが、少し遅かった。



すでにバランスを失った肘が、顔の側面を滑る。

そのまま机の角に額が直撃。のみならず、よほど爆睡していたのかそのまま椅子から転落。

倒れゆく体に向かって近付きながらも、ガッシャン!ガツンッ!!という小気味よい音に思わず耳を塞いだ。





「だ、大丈夫ですか?」




大丈夫じゃないですよねーと思いながらも声をかけると、男はそこで初めて目が覚めたらしい。

ぱちぱちと何度かゆっくりと瞬きした後、気だるげにアルカナに目をやった。




その見上げてくる瞳にアルカナは…思わず息をのんだ。





…………うっわぁ。



男は、ユアンとはまた違った意味でのかなりの美形であった。

そう、美形に耐性のあるはずのアルカナが思わずフリーズしてしまうほどの。




気だるげに見上げてきた瞳は、最高級の宝石を思わず連想させるほどの神秘的で妖艶な紫。

ユアンが優しい王子様風ならば、こちらはアダルトチックな色気のある王子様。





駆け寄り、膝を突いたままの姿勢で思わず静止してしまったアルカナを見て、男は小さく首を傾げた。



「……?」




どうやらあまり状況が分かっていないらしい。痛むのか、額を手で押さえて不思議そうな顔をしている。





まぁ…痛むだろう。


額からドバドバ血が出てますから…ね。





垂れてくる血に、少し驚いた様に目を見開く男の姿に、アルカナは小さく笑みをこぼした。

額から流れ落ちる血液。机でがっつり額を打っていたので当然と言えば当然であるが、頭の傷という物は面倒なものであまり深くなくてもこれでもかというほど血が出てくる。


血が目に入るのだろう。男は片目を瞑りながら、血が止まる気配のない額を押さえている。

流れる血が制服まで汚しているのをみてアルカナは顔をしかめる

ガーゼでもあれば止血ができそうなものだが、あいにく救急セットを持ち歩く習慣はアルカナにはない。



「…ああ、そうだ」




ぽんっと手を打つと、アルカナはポケットを探り、そこから白いレースのハンカチを取り出した。

新品のおろしたて。これなら不潔ではないし、止血用として使っても差し支えないはずだ。




「これ使ってください」


「……」




真っ白な純白なハンカチ。

他人の目から見てもそれが新品であるとわかるそれ。

青年はそのハンカチの白さに、貸してもらおうと出しかけた手を引っ込め、ゆっくりと首を振る。




「遠慮しないでください。どうせ傷に当てるなら清潔な方が良いですから。これは新品ですし、もってこいです」




左手で握り拳を作りながら言うと、そこで初めて相手が無表情にアルカナを見ながら口を開いた。




「……普通そういう物は渡さない」



声までかっこいいのかこの人は。これは酷い。

にしても、他人の持ち物を気にする様子を見ると、とても優しい人のようだ。



「大丈夫ですよ」



まぁ…これは貰い物なのだが、今の持ち主は私であるからどう使おうと問題は無いだろう。

捨てるつもりはもちろんないし、洗濯すれば使えるし、使えなかったら飾っておくことにしよう。

だから大丈夫。


…たぶん、きっと、恐らく。




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