天才と凡才 3
「新入生代表、ユアン・リクルート」
「はい」
………
…………
………ん?んん?
一瞬聞き間違いかと思い耳をぱしぱし叩いたが、壇上に上がる人物を見た瞬間思わず目を見開いた。
マイクを使い、台本を見ることなく挨拶を始めたのは間違いなく自分の家族であり幼馴染みのユアン。
綺麗な腰の折り方、声も聞き取りやすく好感の持てる喋り方。
その堂々たる姿に、ぽかんと開いた口が塞がらない。
新入生代表挨拶は国立シファネ国際魔法学園創立以来、常に入試でトップだった者が選ばれてきた。
…つまり……
ユアンは主席合格なわけで…
腐っても家族だ。幼馴染だ。ユアンの頭の良さはアルカナはよく知っている。
運で合格したアルカナとは違い、ユアンは実力で合格したことも分かっている。
けれど、それとこれとは別問題。誰がこの学校を首席で入学すると思うものか。
「…マジですか」
静かな空間に漏らされた小さな呟きは、幸い注意されることなく、隣の席の人に少し睨まれるに留まった。
*****
入学式が終わると、アルカナは新入生でごった返す広間をひたすらにてくてくと歩き回っていた。
目的はもちろん、ユアンに会うためだ。
しかしながらワンフロアであるにも関わらず、やはりスケールは大きくいったいこのフロアに何人人がいるのか予想すらできない。
こう人が多いとなかなか目的の人物を見つけることもかなわない。
アルカナの身長は並であり、男女入り乱れる人ごみの中ではなかなか遠くまで見渡せない。
それ以前の問題として、ユアンの身長自体高い方ではないため見つけるのは非常に困難であった。
フロアを軽く4周したが見つからず、諦めて出口に向かう。
しかし、出口付近にやけに女子ばかりの人だかりができておりなかなか通ることができない。
なんの集まりだろう?
首を傾げ、アルカナは野次馬根性でその人だかりの中心に近づいてみた。
「…見つけた」
人だかりの中心にはユアンいた。
どうやら新入生代表挨拶をしたことで早速注目を浴びたらしい。頭が良くて美少年、女子が見逃す筈もない。
きゃいきゃいと黄色い声ではしゃぐ女の子達を前に、アルカナはどうしてか声を掛けられずにいた。
ただ、何となく居づらいものを感じたアルカナは仕方なく帰ろうと歩き出す。
「…アルカナ?」
あの人だかりの中どうやってだかアルカナに目敏く気付いたのだろう。帰ろうとするアルカナの後ろからユアンの声がした。
アルカナが振り返るとユアンがこちらに来ようとするのが見える。もしかすると案外アルカナを待っていたのかも知れない。
だが、女の子達に腕を捕まれたり制服を捕まれたりとなかなか引き留められているようで、どうもこちらにこられない。
一応自分を除く女子には優しいユアンのことだ。あれを振り切ることは難しいだろう。
「…ま、仕方がないですね」
ふぅ、とアルカナは小さく息をついた。
元より大した用事があったわけではないのだ。少し話したかっただけで。
…ユアンが女の子にもてるのなんていつものことだ。
ユアンと話すことを仕方なく諦めたアルカナは、もうこっちに来なくて良いよという意味を込めてバイバイと手を振った。
あの人垣では見えなかったかも知れないが、ユアンの反応を確かめることなくアルカナはその場を後にした。