天才と凡才 2
だ、黙っていたらやられる…!!
相変わらず絶対零度の視線はアルカナに注がれている。
アルカナは勇気を振り絞るように、ぎゅっと汗のにじむ手のひらを握った。
こうなったら先手必勝。
そう決心し、本人にとっては精一杯の睨み(注:全く微塵も怖くない)をユアンに向ける。
そして一言。
「…て、てて鉄分が足りないんじゃないですか?」
「………」
「………」
流れる沈黙と、相手からの冷めた目線。絶対零度を通り越してなにがなんだかわからないことになっている。
気がつけば周りに人はいない。全力で二人から距離を取っているようだった。
別に遅刻しかけているわけじゃない。たぶん。
「……それ、たぶんカルシウムの間違い」
ため息混じりの冷淡なユアンの口調。
……ああ、やってしまった。
こういうときに自分の無能さが身にしみるアルカナは目に見えてしょんぼりと落ち込む。
俯き肩を落としたその姿には、明らかに先程までの元気はない。
その様子に怒る気の失せたユアンはわざとらしいまでのため息を吐いた。
「…ほんとなんでここ受かったわけ?」
「試験がマーク式だったからですけど?」
けして一般の同年代と比べて劣っているわけではないけれど、世界一の魔法学校に入学するには明らかに知識の足りていないアルカナ。
しかし、その欠点を補って余りある特技(?)がある。
…変なところで運がいいのだ。恐ろしいまでに。
国立シファネ国際魔法学園は受験者が多いだけに記述式では採点が間に合わない。
そのためマーク式が採用されているのだが……。
「……不幸な学園だね、ほんと」
「むむ、どういう意味ですか」
どうもこうもそのままの意味なのだが、ユアンはそれ以上を言おうとはしなかった。
誰がなんと言おうと、この学院にアルカナが受かったことは彼女と…
自分にとっては幸いなのだから…
*****
1人、2人と壇上に上がり祝辞を述べていく来賓達。
大して変わらない内容。
入学おめでとうございます。学校生活楽しみながら勉学に励んでください。
化粧の濃い年配の女性に髪の毛の薄い中年といった代わり映えしない人物達。
…一体何人いるのだろうか。
皇帝陛下を始め、各国の著名人、ずらりと並んだ来賓席の先はアルカナの席から見えない。
無駄に権力のある人が多すぎて紹介だけではすませられないのだろう。
…眠いなぁ…。
何人目になるか分からない祝辞を聞きながら、アルカナはぼんやりそんなことを考えていた。
入学式が始まりあくびを噛み殺してはや一時間。
周りの生徒は未だ熱心に話を聞いているようだがアルカナにはそろそろ限界だった。
いかにしてこの入学式を乗り切るか、アルカナは眠くて働かない頭でそんなことばかりを考えていた。
目はあけているつもりでも、いつの間にか閉じてしまう。
気が付いたら隣の人にもたれかかっているからだ。正直もう限界だった。
そんな時…
「新入生、挨拶」
響く教頭の声に半ば閉じかけていた瞳をうっすらと開ける。
あ、後半だ。来賓の挨拶終わったんだ…。
半ば意識の飛んでいたアルカナだったが、長い来賓挨拶が終わった事を知り意識を少し回復させる。
しかし、司会の次の台詞でアルカナは意識を完全に取り戻すこととなる。