やけどしたい令嬢とさせたくない騎士 〜浮かれポンチな私が日記を彼に読まれたら〜
去年もアル様は素敵だった。
今度こそハグいいえ、今年の目標はキスよ。
そこまで書いて、私は日記を閉じた。新しい年の始まりは、ソワソワする。
私は、白いレースで縁取られたドレスを鏡で確認する。
今日はご挨拶にアルトリウス様がやって来る。
今年の目標に近づけるために、メロメロ大作戦をしなくては。
私は念入りにお化粧して、ツヤツヤの唇になるよう、桃色の紅を塗った。
「リュシア様、今年もよろしくお願いします」
アルトリウス様は、今日も素敵だ。
濃紺の髪に星空のような吸い込まれてしまいそうな瞳。
「アルトリウス様、お会いできて嬉しいです。これを」
私は新年のご挨拶のお菓子を、白い手首をチラ見せしながら渡した。
ちら、ちらと確認する。
誘惑されてくれるかしら。
「……リュシア様」
彼は目をぱちぱちした。
これは……!
きた。と拳を握りしめる。
「リュシア様、お顔が赤いですよ。寒いのではありませんか?」
彼はマントを脱いで私の腕をすっぽりマントの中に入れてしまった。
なぜ……なぜ?
ぐぬぬと舌を噛む。
悩殺じゃないの?
マントからふわりとアルトリウスの香りがして頬が熱くなるのがわかる。
どうしよう。私ばっかりドキドキしてる。
次の手を考えなくては。
「お茶でも飲んで行って下さいませ」
私は彼の腕に甘えるように腕を絡めた。
彼はぴたりと動きを止め。
きた……!
するりと手をさりげなく外した。
ふわりと鉄壁の笑顔。
「家族の団欒をお邪魔するわけにはいきませんので」
では、と立ち上がる。
なんで、なんで?
あっさり帰ろうとしてるんですけど?
私は慌てて玄関まで追いかけた。
「アルトリウス様……!」
その時、私はスカートから何かが落ちた。
私が気がつく前に、アルトリウス様の手が伸びる。
「あ……」
最悪だ。私の日記。
アルトリウス様は手を伸ばした姿勢のまま固まっている。
引かれた?
あまりの気まずさに顔を伏せる。
しばらくの沈黙。
そして。
「……アル様とはどなたですか?」
その呟きは小さすぎて聞こえなかった。
ただ、アルトリウス様の空気が一瞬で重くなって、その圧にシャキッと首筋が伸びた。
「アルトリウス様……?」
彼がゆらり、ゆらりと歩いて来る。私は底知れない何かを感じて一歩、そしてまた一歩後退した。
背中が壁に当たる。
彼は私を囲い込むように手をついた。
これは、噂に聞く壁ドンでは!
私の心臓はドッキンバックン大忙しだ。
ぽうっと見上げると。
「……だめです。あなたが他の誰を思っていようと、キスなんてさせるわけ、ないじゃないですか」
低く、感情を煮詰めたような声、そして、
「んむ」
唇が塞がれた。
キス。
しかもこれ、深い。
舌と舌が擦れ合い、食べられてしまいそう。
どれだけ経ったのだろう。
顔が離されると、銀糸がつぅっと伸びた。
彼の指が、私の唇を親指で撫でる。
「悪い子ですね。リュシア、誰を誘惑しようとしてたんですか?」
なんて言うから、腰が砕けた。
「アル様…アルトリウス様。素敵すぎます♡」
ふしゅうと頭が沸いて使い物にならなくなった私を見て、ようやく何かおかしいと思ったらしい。
「リュシア様?」
大丈夫ですか? と慌てて抱き起こされて、
「だいじょうぶです。今年はいい年です」
私はガッツポーズした。




