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魔族大学では接客バイトが必修です。外界は理不尽なので。  作者: 鳳梨亭ほうり


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2話

外界実習二日目の夜。

寮の食堂は、普段より少しだけざわついていた。


理由はひとつ。

「外界三日目のグループ報告会」があるからだ。


外界実習に出た学生は、ほぼ全員

“何かしらの理不尽”を抱えて帰ってくる。

それを共有し、笑い合い、少し軽くしていく──

この学部に根付いた、大切な時間だった。


ビューはトレイを持って席に向かうと、

すでにアッシュ、ミュー、ラザンの姿があった。


鬼族のアッシュは元気があり余っていて、

スライム族のラザンはぷるぷる震えながら飲み物を吸っている。

鳥人族のミューはスープを両手で包み、そっと湯気を見つめていた。


「よし! 始めるか。反省会……いや、災害報告会!」


アッシュが勢いよく宣言した。



「まず俺からな!」


アッシュは、ガタンと椅子を引いて立ち上がり、拳を握る。


「コンビニのタバコがヤバい!!」


「え、タバコ……?」


ビューは、よくわからず聞き返すが、アッシュがそのまま、感情的に続ける。


「タバコの“名前”だよ!

 外界人ってさ、タバコを略称で言うんだぜ!?

 “セッタ!マイセン!アメスピ!”とか!!

 あれ呪文だろ!!」


(呪文じゃ……ないんだよね?)


アッシュは続ける。


「で、“マイセンの5!青いやつ!”って言われるんだよ!

 なにそれ!?

 数学かな!?魔術式かな!?

 一応さぁ、分かるように全部に番号は振ってあるんだよ!

 なのにさぁ、略称で言うんだよ。分かるわけねーだろ!!」


「……外界って複雑なんだね」


「そう!複雑すぎるんだよ!!ひどいんだぜ?

 さっきの“マイセンの5”って、番号だと思うじゃん?

 5番探したら無いの。

 この場合は、5ミリってことらしい。マジで意味わからん。

 しかも、“マイセン”って古い銘柄らしくって、今はもう無いの。

 で、間違えたら“はぁ?”とか言われてさ……

 すげぇ、ヤな感じで正しい番号伝えてくんの。

 鬼でもくじけるわ!!」


強面のアッシュが落ち込んでいるのを見ると、

外界の“無茶ぶり文化”の重さが改めて分かる。


(アッシュでもへこむんだ……外界、本当に容赦ないな……)



「じゃあ次は……ミューの番かな?」


ミューはスープを啜ってから、小さな声で話し始めた。


「私、実習先はパン屋さんだったんだけど……

 お客さんに“あれ、ください”って言われて……

 “どれでしょうか?”って聞いたら……」


「うん」


「“見れば分かるでしょ?”って……

 優しい声で、でも冷たく言われた……」


(いや、分からんだろ……!どれだよ……!)


「スパルタじゃん!!読心魔術の訓練かよ!!」


アッシュもすかさず突っ込みをいれる。

さらに、肩を落としながらミューは続ける。


「それで……頑張って勇気出して聞いたら……

 “なんで分からないの?”って……

 悲しそうに言われて……

 私が悪いのかなって……」


「違うよ……絶対違うよそれは……!」


「ありがとう、ビュー。

 誰かに“違う”って言ってもらえるだけで……救われるね」


ミューはほっと微笑んだ。


(……分かるなぁ。

 外界の“曖昧な責められ方”って、じわじわ効いてくるんだよ……)



「ほじゃあ、ぼく……?」


ラザンがうにょりと挙手し、トロっとした声を出す。


「ぼく、スーパーで働いたんだけど……

 なんか怒られてたらしくて……」


ビュー、ミューが矢継ぎ早に質問を投げる。


「怒られてた“らしくて”?」

「気づかなかったの?」


「うん。

 なんか早口で言ってたけど、

 “あ、ぼくに言ってないのかな”って思って……

 そのまま作業してたら店長に呼ばれて……

 “ごめん、あれ君に言ってたんだよ”って……」


「最強じゃんお前!!」


(羨ましい……)


ラザンは誇らしげに胸を張った。


「ぼくねぇ……怒られても、怒られたと気づかないスキルがあるんだぁ」


『外界最強の防御魔法では……?』


ミューとビューが同時につぶやき、アッシュは机を叩いて笑った。



「で、ビューは?」


3人の視線が集まる。

ビューは少し迷ってから言葉を落とした。


「僕は……“無視して注文する人”と、

 “急いでてイライラしてる人”に当たったよ」


「あー……典型的だな」

「つらかった、よね……?」


アッシュ、ミューも実習を通して実感しているらしく、うんうんと頷く。


「うん……胸がざわっとして……

 “僕が悪いのかな”って……

 何度も思っちゃった」


「ぼくに怒りを分けてくれれば良かったのに〜」


(それはちょっと羨ましい……)


外界の“理解できなさ”が、4人の間に静かに落ち着いた。

それでも──話すだけで、不思議と軽くなる。

確かに、この学部に根付いた大切な時間ということに全員が気付いた様子だった。



その夜。

ビューはレポートを書き、フォルネウス教授へ送った。


しばらくして、返却されたレポートには

鋭く、それでいて温かいコメントが並んでいた。


《ビュー君。

 大丈夫です。学生のうちは、嫌になったらやめていいのです。

 外界の実習とは“耐久試験”ではありません。》


《ニンゲンは他者への配慮が欠けて見えるかもしれませんが、

 それは“あなたを傷つけたいから”ではなく、

 “自分のことで精一杯なだけ”です。》


《ただし一部には、

 “相手に嫌な思いをさせるために、意図的に行動する者”も存在します。

 そこに理由はありません。災害に理由がないように。》


《理不尽に遭遇しても、

 あなたの価値は欠片も減りません。

 胸を張りなさい。》


(……胸を張っていいんだ)


読み終えた瞬間、胸の奥がじんわり温かくなった。


(僕だけじゃないんだ。

 同期も頑張ってる。

 教授も支えてくれてる。

 外界はまだ怖いけど……

 もう少し続けてみよう)


ビューは静かに息を吸い、ベッドに倒れ込む。


その夜の眠りは、昨日より少しだけ深かった。

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