国王の危機
ティアナの魔力が、明確に変わった。
量が増えたわけではない。
展開の速度と同時性が、段違いになる。
王が一歩踏み込んだ瞬間、床に影が走る。
斬撃が届く直前、ティアナは半身を引いた。
王の剣は空を切る。
――が、その着地点。
床が、爆ぜた。
影の中から展開された地属性の魔術。
踏み込んだ足元を狙った、遅延ではなく捕縛。
「……っ」
王は即座に跳ねる。
間一髪で拘束を外し、距離を取る。
だが――
そこへ、火魔術が飛んでくる。
横からではない。
避けた先に、すでに展開されていた魔術。
爆炎が走り、玉座の間の柱が砕け散る。
王は腕で顔を庇いながら、壁際へ追い込まれる。
間髪入れず、雷魔術がとんでくる。
空気が裂ける音。
王は剣で受け、衝撃に膝をつく。
「……連続、か」
息を整える暇もない。
影が、天井へ伸びる。
次は落下。
王は転がるように前へ出る。
その動線を――凍結。
床が凍り、踏み込みが鈍る。
一瞬。
ティアナの魔力が、王の懐へ収束した。
「……!」
王は直感で剣を横に振る。
だが遅い。
衝撃が走り、剣を持つ手が弾かれる。
右手首から血が散った。
剣と右手が、床に落ちる。
ティアナは、淡々と魔術を維持したまま歩み寄る。
優勢は、明らかだった。
「……終わりね」
その瞬間。
王は、止血をしながら笑った。
「――やはり」
左手で、剣を拾い上げる。
「人間だった頃の癖が、抜けていないな」
ティアナの動きが、ほんの一瞬止まる。
「避けた先を塞ぐのは上手い。だが――」
王は、前に出た。
「仕留める瞬間、必ず正面に立つ」
次の瞬間。
王の剣が、一直線に振り抜かれる。
今までで、最短。
今までで、最も無駄のない一撃。
魔術を展開するより早く。
刃が――
ティアナの身体を、捉えた。




