戦争の始まり
王城・東塔廊下。
歪みは、完全に敵の形を取っていた。
黒い霧のような体躯。
だがその内部では、赤黒い魔力が脈打つように流れている。
フィオナは、半歩前に出た。
剣を構えながら、左手に魔術陣を展開する。
淡い蒼光が指先に灯る。
歪みが跳ねた。
床を溶かすように滑り、無数の刃を生やして襲いかかる。
「《氷縛陣》!」
フィオナが掌を叩きつける。
床から氷の魔方陣が展開し、歪みの脚を凍結させる。
だが影は、自らの体を引き裂いて氷を破り、さらに加速する。
「ちっ……!」
フィオナは踏み込み、剣に魔力を流す。
刃が蒼白く輝く。
「《魔剣強化》!」
横薙ぎの一閃。
影が裂け、黒霧が弾け飛ぶ。
返し刃。
二撃目が核心へ――だが、影は崩れず再構成する。
「厄介ね……!」
背後でリーネが短剣を構え、詠唱を始める。
「《光導矢》」
短剣から光の矢が放たれ、影の中心を貫く。
影が悲鳴のように歪む。
フィオナは跳ぶ。
柱を蹴り、空中で魔術陣を展開。
「《氷麗刺》」
無数の氷の槍が降り注ぐ。
影が天井へ逃げる。
リーネが床を転がりながら詠唱を切る。
「《封魔陣・二重展開》!」
床と天井に魔方陣が浮かび、影を挟み込む。
フィオナが剣を振り抜く。
「今だ!」
蒼白い斬撃が走り、氷と光と剣が重なって――
影の核心を断った。
空間が悲鳴を上げ、歪みは霧散する。
フィオナは肩で息をしながら、それでも剣を下げなかった。
遠くで、また警鐘が鳴る。
王城は、まだ戦場だった。




