敵の襲来
歪みが、脈打った。
床に走ったひび割れのような線が、音もなく広がり、壁を這い上がる。
空間そのものが、呼吸するように膨張と収縮を繰り返していた。
フィオナは、迷わず踏み込んだ。
剣閃が走る。
白銀の刃が歪みを横断し、城の空気を裂いた。
斬撃は確かに何かを捉え、衝撃が腕に返る。
しかし歪みは完全には崩れず、逆にうねりを増した。
床から黒い影のような塊が噴き上がる。
形は定まらない。
獣にも、鎧にも、人にも見える輪郭が、瞬間ごとに変わる。
音が消え、風圧だけが頬を叩く。
フィオナは半歩だけ身を沈め、剣を滑らせるように振る。
影の腕が断たれ、黒い粒子となって散った。
同時に、背後から別の影が迫る。
「――フィオナ様!」
リーネが走り込み、短剣を投げた。
銀の閃光が一直線に飛び、影の核へ突き刺さる。
空間が軋み、低い悲鳴のような振動が走った。
影は大きく揺らぎ、動きを止める。
リーネは次の短剣を抜きながら距離を詰める。
歪みは、怒りを帯びたように膨張した。
天井が歪み、光が潰れ、
複数の影が同時に生まれる。
フィオナは剣を低く構え、二人は背中合わせになる。
影が一斉に襲いかかる。
フィオナの剣が舞う。
突き、斬り返し、回転――すべてが無駄なく繋がり、影を切り裂く。
リーネは影の死角へ滑り込み、
短剣で核を正確に貫く。
歪みが悲鳴のように収縮した。
ーーー王の私室。
空間が裂けた瞬間、燭台が歪みに飲み込まれるより早く――王は、立った。
剣を抜く音が、静寂を切り裂く。
細身だが無駄のない体躯。
戦場を知る者だけが持つ、重心の低さ。
王は一歩、前へ出る。
影がうねり、刃の形を取って襲いかかる。
王は躊躇しない。
剣を半身で受け流し、踏み込みと同時に斬り返す。
白銀の剣が影を裂き、黒い粒子が散る。
「……斬れるな」
王の声は、静かだが鋭い。
影が複数に分かれ、天井と床から同時に迫る。
王は剣を構え直す。
「ならば十分だ」
低く息を吸い、一気に踏み込む。
剣が走る。
斬撃が連なり、影を寸断する。
歪みが悲鳴のように収縮し、異変に気付いた近衛が援護に入る。
「陛下、右です!」
王は振り向かず、肘打ちで影を砕き、剣で核を貫いた。
空間が震え、影が崩れ落ちる。
「……王城東塔も戦闘中との報告です」
「今夜は、眠れそうにないな」




