不可解な事件
こうして王国は、不可解な事件に覆われ始めた。
井戸は凍り、灯りは失われ、音は消え、道は塞がれた。
本当に危険な兆しが現れたのは、この異変が起き始めた直後の夜である。
王城・東塔。
夜警の交代時刻。
廊下には規則正しい足音と、松明の揺れる光があった。
「異常なし――」
そう報告しようとした騎士が、言葉を止めた。
前方の廊下が、歪んでいた。
壁でも床でもない。
空間そのものが、薄く引き延ばされたように揺れている。
「……何だ、あれは」
一歩、踏み出す。
次の瞬間。
騎士の足元から、音が消えた。
金属靴が床を叩くはずの音が、存在しない。
続けて、松明の火が――音もなく、消失した。
「なにが――」
叫びは、途中で途切れる。
騎士の上半身が、歪みの中に沈み込んだ。
「敵襲!!」
即座に状況を判断した騎士の1人により警鐘が鳴らされる。
数秒後、廊下の反対側から、フィオナが駆け込んできた。
剣はすでに抜かれている。
顔に迷いはない。
「状況を!」
「正体不明の現象により、騎士一名行方不明になりました。」
「わかったわ。」
フィオナは、足を止めない。
歪みを一目見て、即座に判断する。
「……魔術じゃない。でも……」
剣を構え、距離を測る。
次の瞬間、歪みが脈打った。
空間が、意思を持ったように膨らみ――触手のような形を取りフィオナの方へ歪みが伸びた。
彼女は、退かない。
一歩踏み込み、剣を横薙ぎに振る。
刃が、確かに何かを捉えた。
手応えがある。
衝撃と同時に、空気が弾けた。
歪みが一瞬、後退する。
「――斬れる」
それは、確信だった。
相手が何であれ、
干渉できる。
倒せる。
だからこそ――
背後で、扉がバンッ!音を立てて開いた。
「フィオナ様!!」
リーネが飛び込んでくる。
「単独行動は禁止です!」
「分かってる。でも――」
フィオナは、剣を構えたまま視線を逸らさない。
「ここで止めないと、城内に広がる」
歪みが、再び動く。
今度は、二方向。
床と壁が、同時に軋む。
「……厄介ね」
フィオナは息を整え、剣を握り直した。
「リーネ、後方支援お願い」
「承知しました」
こうしてーーー
王城で初めて、異変との本格的な戦闘が始まった。




