地下に眠る真実
ヴィルド王国の城は、冷たい石の匂いがした。
廊下を歩くたびに、靴音が虚ろな響きを返す。
フィオナは叔母に案内され、奥まった一室の前に立つ。
「……ここがお母さまの部屋?」
その光景に、フィオナの喉が詰まった。
お母様の部屋は整然としていた。
だがそこには「生」の気配がなかった。
生きることを許されず、消費されるだけの人が住んでいた部屋。
壁に掛けられた小さな絵の裏に、隠し鍵があった。
叔母はそれを迷いなく取って、床板を開いた。
暗い階段が続いている。
「ここは……?」
「ティアナお姉さまが、最後まで“抵抗”していた場所よ。」
叔母さまは静かに灯りを取り、階段を降りた。
湿った冷気が肌にまとわりつく。
古びたドアを開けるとーーー
そこには机と棚、そして拘束具の痕がついた椅子やひび割れたガラス管、血のこびりついたメモ紙、そして積み上げられた研究記録があった。
それは、母がたった一人で戦い続けた証。
「研究資料に触れても構いませんか?」
フィオナの声は震えていた。
それでも、真実を知りたいという思いが勝っていた。
「もちろんよ。満足するまで見なさい。」
フィオナは震える手で、床に落ちていた分厚いノートを開いた。
そこにはびっしりと魔族についての研究内容が書かれていた。
魔王に関する記録やエルフが“魔族化”するまでの人体過程、そして、それを戻すための解毒薬の研究記録……
どの一文にも、彼女――おそらく母の手による筆跡が、生々しく刻まれていた
ページをめくるうちに、ひとつだけ雰囲気の異なるノートが目に入る。
背表紙は擦れて、角が丸くなっていた。
それを開いた瞬間――
フィオナの指先が止まった。
そこに記されていたのは、研究記録ではなかった。
お母さまの“自分を忘れないための日記”だった。




