温かな晩餐
晩餐の食堂は、昼間よりも灯りが落とされ、落ち着いた空気に包まれていた。
フィオナが入ると、すでに国王は席についていた。
書類は脇に寄せられ、珍しく手元には何もない。
「遅かったな」
「……ごめんなさい、時間を見てなくて」
「そうだと思った。」
即答だった。
フィオナは小さく肩をすくめ、向かいの席に座る。
「でも、ちゃんと食べるから」
「それを聞いて安心した」
「……そんなに、私信用ないかしら?」
「信用していないのではない。前科が多い」
「……否定できないのが悔しいわ。」
給仕が下がり、二人きりになる。
スープの湯気が、ゆっくり立ち上る。
「今日はどうだった」
「……鍛錬して、今は王女の仕事もなしにしてもらっていますから調合室にずっと籠っていました。……お父さまは?」
「会議と報告と……会議だ」
「ふふ……相変わらず大忙しですね…」
「だから、こうして一緒に食べている時間は貴重だ」
「……大げさですよ。」
そう言いながらも、フィオナは少しだけ口元を緩めた。
国王は、パンをちぎりながらフィオナの皿に料理を少し足す。
「……また増えてる」
「気のせいだ」
「朝も同じこと言ってましたよ?」
「一貫性があるだろう」
「……親バカの一貫性はいらないです。」
フィオナは文句を言いながら、結局きちんと食べる。
しばらく、食器の音だけが続いた。
ふと、国王が穏やかな声で言う。
「今日は……顔色が朝よりいいな」
「そう…?」
「ああ」
フィオナは少し考えてから答えた。
「……たぶん、ちゃんとご飯食べてるからですね。」
「それは単純すぎないか?」
「身体は正直ですから。」
フィオナは笑って、スープを飲み干す。
「明日もまた食べましょうね。」
国王はすぐに頷いた。
「ああ。約束しよう」
「破ったら文句言いますよ?」
「はは……覚悟しておくよ」
食事が終わり、フィオナは椅子を引く。
「じゃあ、今日はもう休みますね」
「そうしなさい」
立ち去る前、フィオナは振り返る。
「……おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
扉が閉まり、食堂に静けさが戻る。
国王は空になった皿を見て、ほんの少しだけ、安堵の息を吐いた。
「……こういう時間が、あるうちはな」
それ以上は言わず、灯りの下で静かに席を立った。




