76/103
調合室の中
調合室は、昼間でも薄暗かった。
高い棚に並ぶ薬瓶と古い書簡が、光を吸い込むように沈黙している。
フィオナは外套を椅子にかけ、机の上に材料を並べた。
乾燥させた月霜草。
銀の微粉。
魔力水を封じた細い水晶瓶。
どれも、扱いを間違えれば術式が崩れる代物だ。
フィオナは深く息を吸い、調合を始めた。
月霜草をすり潰し、魔力水を一滴。
反応は穏やか。問題ない。
次に、銀の微粉を加え,加熱しながら魔力を込める。
……その瞬間。
ぱち、と微かな音がして、液体がわずかに濁った。
「……だめ、か」
声は静かだった。
机に肘をつき、視線を落とす。
(配合比は合ってる。魔力水の純度も問題ない。やっぱり魔力量をもっと多くした方が………)
フィオナはもう一度、最初からやり直した。
二度目。
三度目。
結果は、すべて同じ。
完成一歩手前で、必ず止まる。
椅子に腰を下ろし、額に手を当てる。
できない。
完成しない。
それは、もう分かっている。
それでも――
今は、手を止められなかった。
調合室には、再び静かな音だけが戻る。
ガラスが触れ合う、かすかな響きとともに。




