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今できる約束
フィオナは訓練場の出口へ歩きながら、ふと思い出したように振り返る。
「……これから、わたしは調合室に行くわね」
「調合室、ですか?」
「ええ。薬を早く完成されないとだから……」
言い方は軽いが、目はいつもより真剣だった。
リーネは一瞬迷い、それから頷く。
「承知しました。では、護衛を――」
「いい。ひとりで行く」
「フィオナ様」
「城の中よ?問題ないわよ。」
きっぱりと言われ、リーネはそれ以上言えなくなる。
「……かしこまりました」
フィオナは満足そうに笑い、扉に手をかけた。
そして、思い出したように付け足す。
「夜になったら、呼びに来て」
「夜、ですか?」
「ええ、今日はお父さまと夕食をたべる約束をしたのよ。私、よく時間を忘れてしまうから。」
「……分かりました。では、日が落ちる頃に」
「お願い」
短く言って、フィオナは廊下へと消えていく。
その背中を見送りながら、リーネは小さく息をついた。
(……また、無理をなさるおつもりですね)
だがそれでも――彼女は、主の背を追わなかった。
夜になれば、呼びに行く。
それが今の約束だった。




