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2人の勝負

 訓練場の土は、朝露を含んでわずかに湿っていた。

 足を踏み出すたび、靴底が軽く沈む。


 向かい合う二人の間に、短い沈黙。


 先に息を整えたのはリーネだった。


「では……参ります」


 低く告げ、間を置かず踏み込む。

 無駄のない初動。剣先は一直線にフィオナの肩を狙っていた。


 フィオナは半身になる。

 正面から受けず、角度をずらすだけ。


 木剣同士がかすかに触れ、音も立てずに滑った。


 そのまま間合いを詰めようとするリーネに、フィオナは一歩だけ後退する。

 距離は保ったまま、視線は外さない。


(速い。でも――)


 次の瞬間、リーネが連撃に切り替えた。


 上段、横薙ぎ、下段。

 型は正確で、力も十分に乗っている。


 けれどフィオナは受け流し、弾き、流れをずらす。

 剣と剣が触れるたび、リーネの攻撃はわずかに軌道を失っていった。


「……っ」


 焦りはない。

 だが、思ったより距離が詰まらない。


 リーネは踏み込みを深くする。

 体勢を崩す覚悟で、強く振り切った。


 ――その瞬間。


 フィオナは一歩、内側に入った。


 剣を受けるのではなく、柄元を押さえ、体ごと位置をずらす。

 風を切る音だけが空を裂いた。


 リーネの視界が一瞬、空になる。


「……そこ」


 静かな声。


 気づいた時には、喉元に木剣が触れる寸前だった。


 リーネは動きを止める。

 肩で大きく息をし、ゆっくりと剣を下ろした。


「……参りました」


 深く一礼する。


「踏み込みが深くなった。攻めに意識が寄りすぎよ。珍しいわね、リーネがそんな焦るような動作をしたのは。」


 フィオナは剣を下ろし、淡々と言った。


 リーネは苦笑する。


「フィオナさま、さらに強くなられました?正面から勝てる気がしません」


「……別に勝たなくていいでしょ」


 フィオナは肩の力を抜く。


「護衛が主より強かったら、守る側が守られる側になってしまうではなりませんか」


「……それもそうね」


 そう言いながらも、リーネは構えを解かなかった。

 剣先が、わずかに下がるだけ。


 一度、深く息を吸う。

 次に吐くと同時に、足の位置を半歩ずらした。


「……もう一度、お願いします」



 そう言ってこの勝負は10回ほど行われた。

結果は9対1。フィオナの圧勝だった。


 しかし、リーネは10回やっても剣の構えを解かなかった。

 

「まだやるの?」

 

「はい。」


 フィオナは一瞬だけ目を細め、それから軽く肩をすくめた。


「いいよ。来なさい。」


 

 次の瞬間。


 リーネが動いた。


 速さでも力でもなく、なるべくフィオナの体力を減らすための攻め。


 剣を振る――のではなく、当てにいく。

 浅く、しかし連続で。


 カン、と軽い音が続く。


 フィオナはそれをすべて受け流す。

 余裕はまだあった。


 だが――


 リーネは間合いを詰め、フィオナの反撃を読んで、半拍だけ遅らせる。


「……」


 フィオナの剣が走る。


 それを、リーネは避けない。


 刃を重ね、押し流し、同時に踏み込んだ。


 ごく近い距離。


 その瞬間、フィオナの視界の端で、剣先が跳ね上がる。


 ――コン。


 軽い音。


 リーネの剣が、フィオナの胸元に触れていた。


 ほんの一瞬。

 ほんの数センチ。


 どちらも、動かない。


「……あ」


 フィオナが、先に声を漏らす。


 リーネは剣を引き、すぐに一歩下がった。


「……参ったわ、私の負けね。」


「フィオナさま、最後、油断されましたね?」


「……否定はしないわ」


 悔しそうに言いながらも、どこか楽しそうだ。


 リーネはようやく構えを解いた。


「今日はここまでにしましょう。これ以上続けると、私の集中が切れます」


「今、勝った直後にそれ言う?」


「はい。これ以上続けると、次は負けますので」


「……正直すぎよ」


 フィオナは苦笑して剣を下ろした。

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