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心配してくれる人

――王城・回廊/調合室前


 夜が明けても、調合室の扉は開かなかった。


 その前に立っているリーネは、もう何度目かわからないため息をつく。


「……まだ、出てこない」


 食事の時間も過ぎている。

 侍女が様子を見に来ても、扉は固く閉ざされたままだ。


 そこへ、ぱたぱたと小さな足音が近づく。


「リーネさまー」

「ねえねえ、フィオナさま、まだなの?」


 リーシェとリーリア。

 今日は訓練も免除され、暇を持て余していた。


 リーネは一瞬迷ってから、しゃがんで視線を合わせる。


「……フィオナ様はね、大事なお仕事中なの」


「でも、ずっとだよ?」

「きのうのよるから、ずーっと!」


 双子は扉を見上げる。

 普段なら、もうとっくに出てきて声をかけてくれる時間だ。


「……おなか、すいてないのかな」

「ねむくないのかな」


 その言葉に、リーネの表情がわずかに強張る。


(まさか……また、無理を)


 扉に近づき、そっと耳を澄ます。


 中から聞こえるのは――紙をめくる音。

 ペンが走る、規則正しい音。


 生きている。

 集中している。


 それが分かるからこそ、止められなかった。


「……大丈夫よ」


 リーネは自分に言い聞かせるように呟く。


「フィオナ様は、ちゃんと休まれているだろうから」


 双子は顔を見合わせる。


「ほんと?」

「ほんとに?」


「ええ。だから、今日は私たちが待つ番」


 リーシェが少し考えてから言った。


「じゃあさ」

「あとで、あったかいスープつくろ!」


「いいね!いっぱい!」


 小さな善意が、廊下に広がる。


 リーネはふたりの頭にそっと手を置いた。


「……もう2人は寝なさい。また、明日フィオナ様のところへ行きましょう。」


 扉の向こうで、フィオナはひとりで戦っている。

 誰にも頼らず、誰にも見せず。


 それでも。


 ここには、待っている人がいる。


 心配して、信じて、――ただ、帰りを待つ人たちが。


 回廊に差し込む光が、少しだけ明るくなった。

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