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フィオナの覚悟

国王の言葉が途切れ、部屋には静けさが戻った。


 フィオナはしばらく俯いたまま、動かなかった。

 怒りも、悲しみも、混乱も――胸の奥で渦を巻いている。


 けれど。


 その中心に、ひとつだけ、揺れないものがあった。


 フィオナは、ゆっくりと顔を上げる。


「……お父さま」


 声は震えていない。

 けれど、感情がないわけでもない。


「わたしは……母を、止めます」


 国王の瞳が、わずかに揺れた。


「止める、というのは……」


「戦って、倒すという意味ではありません」


 フィオナは、言葉を選びながら続ける。


「今の母は、魔族です。でも――それでも」


 一瞬、呼吸が浅くなる。


「わたしには……あれを母だと思わないという選択は、できません。」


 国王は、何も言わない。


「母が自分で選んで、あの姿になったのだとしても。誰かを傷つけているとしても。それでも……」


 フィオナは、はっきりと言った。


「わたしは、お母さまを助けたい。」


 その言葉は、重い。


「救える可能性が、ほんのわずかでもあるなら。母が戻れる道が、どこかに残っているなら」


 視線が、真っ直ぐに向けられる。


「それを探さずに、討つと決めることは、できません」


 国王は、深く息を吸った。


「止められないかもしれない。救えないかもしれない。その時は……」


 一瞬だけ、言葉が詰まる。


「その時は、それでも向き合ったと、自分で言える選択をします」


 国王は、静かに目を閉じた。


「……フィオナ」


 声は、以前よりずっと柔らかい。


「私は、その選択をしてもいいと思う。」


 フィオナの肩が、ほんのわずかに緩む。


「だが」


 続く言葉は、重い。


「救うことと、止めることは、同時に成立しない場合もある」


「……はい」


「その時、どちらを選ぶか――その判断は、お前自身が下すことになる」


 フィオナは、静かに頷いた。


「覚悟しています」


 そして、小さく、しかし確かに言う。


「母が……母自身を失いきってしまう前に」


 拳を、ぎゅっと握る。


「わたしが、止めます」


 それは宣言だった。


 国王は、ゆっくりと立ち上がり、父として告げた。


「そうか……」

 フィオナは、一礼する。


「はい」


 その背中は、まだ十五歳の少女のものだったが、逃げないと決めた者の重さを、確かに帯びていた。

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