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脱出したい!

三人は、魔族の城の裏側へと続く細い回廊を走っていた。


 石造りの床は冷たく、足音がやけに大きく響く。

 遠くでは戦闘の轟音が続いているが、こちらに意識を向ける余裕はない――今は、まだ。


「はぁ……っ、はぁ……っ……」


 リーリアの呼吸が少し乱れる。

 リーシェも唇を噛み、必死についてきている。


 フィオナは、すぐにそれに気づいた。


「……無理しなくていい。少し、速度を落とすわ」


「だ、だめ!」

「いま止まったら、つかまる!」


「2人とも、わたしに掴まって……速度を上げるわ」


 体も魔力も万全な状況ではない。


 それでも……


 このチャンスは逃さない。


 高台。


 ティアナは、戦場の全体を見下ろしていた。


 怒りではない。

 焦りでもない。


 ただ、純粋な興味と高揚。

 ティアナは、軽く指を鳴らす。


「追いなさい。でも――殺さなくていいわ」


 魔族の将が一瞬、戸惑う。


「……よろしいのですか?」


「ええ。あれはこちらにとって使えるから。」



 回廊の先。


 崩れかけた外壁から、外の光が差し込む。


「……外だ!」


 リーシェが声を上げた瞬間――


 魔族の斥候が、視界に入った。


「――見つけたぞ!」


 フィオナは、迷わなかった。


 一歩、前に出る。


「《星氷・束縛》」


 地面に薄く広がった氷が、星の紋を描き、斥候の足を止める。

 完全な拘束ではない。


 ――時間稼ぎ。


「今よ、走って!」


 双子が外へ飛び出す。

 フィオナも続こうとした、その瞬間。


 斥候が、氷を砕きながら笑った。


「……その程度か、星霊の――」


 言葉は、最後まで続かなかった。


 フィオナの瞳が、静かに冷える。


「……十分よ」


 氷と星が、初めて“自然に重なった”。


 刹那。

 空気が凍り、魔族の動きが止まる。


 倒すためではない。

 退かせるための、一撃。


 フィオナは踵を返し、外へ飛び出した。


 冷たい夜風。

 遠くに見える、王国軍の旗。


(……間に合って)


 その背後で――


 ティアナは、遠くからその光景を“見ていた”。


「……ふふ」


 初めて、心から愉快そうに。

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