脱出したい!
三人は、魔族の城の裏側へと続く細い回廊を走っていた。
石造りの床は冷たく、足音がやけに大きく響く。
遠くでは戦闘の轟音が続いているが、こちらに意識を向ける余裕はない――今は、まだ。
「はぁ……っ、はぁ……っ……」
リーリアの呼吸が少し乱れる。
リーシェも唇を噛み、必死についてきている。
フィオナは、すぐにそれに気づいた。
「……無理しなくていい。少し、速度を落とすわ」
「だ、だめ!」
「いま止まったら、つかまる!」
「2人とも、わたしに掴まって……速度を上げるわ」
体も魔力も万全な状況ではない。
それでも……
このチャンスは逃さない。
*
高台。
ティアナは、戦場の全体を見下ろしていた。
怒りではない。
焦りでもない。
ただ、純粋な興味と高揚。
ティアナは、軽く指を鳴らす。
「追いなさい。でも――殺さなくていいわ」
魔族の将が一瞬、戸惑う。
「……よろしいのですか?」
「ええ。あれはこちらにとって使えるから。」
*
回廊の先。
崩れかけた外壁から、外の光が差し込む。
「……外だ!」
リーシェが声を上げた瞬間――
魔族の斥候が、視界に入った。
「――見つけたぞ!」
フィオナは、迷わなかった。
一歩、前に出る。
「《星氷・束縛》」
地面に薄く広がった氷が、星の紋を描き、斥候の足を止める。
完全な拘束ではない。
――時間稼ぎ。
「今よ、走って!」
双子が外へ飛び出す。
フィオナも続こうとした、その瞬間。
斥候が、氷を砕きながら笑った。
「……その程度か、星霊の――」
言葉は、最後まで続かなかった。
フィオナの瞳が、静かに冷える。
「……十分よ」
氷と星が、初めて“自然に重なった”。
刹那。
空気が凍り、魔族の動きが止まる。
倒すためではない。
退かせるための、一撃。
フィオナは踵を返し、外へ飛び出した。
冷たい夜風。
遠くに見える、王国軍の旗。
(……間に合って)
その背後で――
ティアナは、遠くからその光景を“見ていた”。
「……ふふ」
初めて、心から愉快そうに。




