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フィオナの救出へ

魔族の国を包む空気が、はっきりと変わった。


 遠くで鳴り響く角笛。

 重く、低く、地を揺らす音。


「……来たわね」


 高台に立つ魔族の将が、口の端を吊り上げる。


「ルチアナ王国軍。正面からの突撃よ」


 次の瞬間――

 城門付近が爆ぜた。


 結界が破られ、白銀の魔力が雪崩れ込む。

 槍、盾、術士。

 統率された王国軍が、一直線に踏み込んできた。


「迎撃!!」


 魔族側の注意は、一気に正面へ集中した。


 爆音。

 魔力の衝突。

 叫び声。


 ――誰も、地下拘束区画のことなど気に留めていない。



 暗い拘束室。


 フィオナは、壁に背を預けたまま、じっと耳を澄ましていた。


(……始まった)


 地面を伝わる振動。

 空気を裂く魔力の流れ。


 ルチアナ王国軍が、来た。


 そのとき。


 ――かすかな、音。


 鍵が、外れる音。


 フィオナは一瞬、幻聴を疑った。


「……?」


 次の瞬間、扉がわずかに開き――

 小さな影が、するりと滑り込んでくる。


「……フィオナ!」


「しーっ!」


 聞き慣れた声。

 小さくて、必死で。


「……リー、シェ……?リーリア……?」


 双子だった。


 戦場とはあまりにも不釣り合いな、小さな体。

 それでも二人は震えながら、確かに立っている。


「今、みんな上で戦ってるの!」

「だから……今なら、だれもこっち見てない!」


 フィオナは、言葉を失った。


「……どうして……ここが……」


「わかるもん!」

「フィオナのこと、ずっと感じてたもん!」


 それは理屈じゃない。

 星霊守護一族としての、感覚。


 リーシェが必死に鎖に触れる。


「これ……かたい……!」


「だいじょうぶ、これ!」


 リーリアが、小さな紋章を手のひらに浮かべる。

 淡い光。

 フィオナが何度も見てきた、《守護の紋》。


「……まさか……」


 かちり、と音がして、鎖の魔力が弱まる。


「今!」

「フィオナ、はやく!」


 フィオナは歯を食いしばり、立ち上がる。

 身体が重い。

 視界が揺れる。


 それでも。


「……ありがとう」


 低く、でも確かな声で言う。


「……でも、ここからは――」


 言い切る前に、地上から爆音。


 魔族の叫び声が、はっきりと近づいてきた。


 ――気づかれ始めている。


「フィオナ!」


 双子が同時に手を伸ばす。


 フィオナは一瞬だけ迷い――すぐに決断した。


「……走るわよ」


「うん!」

「いっしょ!」


 三人は、戦場の裏側へと駆け出した。


 そのとき。


 遠く、高台で。


 ティアナが、ふっと振り返る。


「……あら?」


 視線が、地下の方向を捉える。


 魔族側が突撃に夢中になっている、この一瞬。


 ――奪われた。


 ティアナは、楽しそうに笑った。


「……なるほど。そう来たのね」


 戦場の喧騒の中で、小さな救出劇が、確かに成功していた。

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