フィオナの救出へ
魔族の国を包む空気が、はっきりと変わった。
遠くで鳴り響く角笛。
重く、低く、地を揺らす音。
「……来たわね」
高台に立つ魔族の将が、口の端を吊り上げる。
「ルチアナ王国軍。正面からの突撃よ」
次の瞬間――
城門付近が爆ぜた。
結界が破られ、白銀の魔力が雪崩れ込む。
槍、盾、術士。
統率された王国軍が、一直線に踏み込んできた。
「迎撃!!」
魔族側の注意は、一気に正面へ集中した。
爆音。
魔力の衝突。
叫び声。
――誰も、地下拘束区画のことなど気に留めていない。
*
暗い拘束室。
フィオナは、壁に背を預けたまま、じっと耳を澄ましていた。
(……始まった)
地面を伝わる振動。
空気を裂く魔力の流れ。
ルチアナ王国軍が、来た。
そのとき。
――かすかな、音。
鍵が、外れる音。
フィオナは一瞬、幻聴を疑った。
「……?」
次の瞬間、扉がわずかに開き――
小さな影が、するりと滑り込んでくる。
「……フィオナ!」
「しーっ!」
聞き慣れた声。
小さくて、必死で。
「……リー、シェ……?リーリア……?」
双子だった。
戦場とはあまりにも不釣り合いな、小さな体。
それでも二人は震えながら、確かに立っている。
「今、みんな上で戦ってるの!」
「だから……今なら、だれもこっち見てない!」
フィオナは、言葉を失った。
「……どうして……ここが……」
「わかるもん!」
「フィオナのこと、ずっと感じてたもん!」
それは理屈じゃない。
星霊守護一族としての、感覚。
リーシェが必死に鎖に触れる。
「これ……かたい……!」
「だいじょうぶ、これ!」
リーリアが、小さな紋章を手のひらに浮かべる。
淡い光。
フィオナが何度も見てきた、《守護の紋》。
「……まさか……」
かちり、と音がして、鎖の魔力が弱まる。
「今!」
「フィオナ、はやく!」
フィオナは歯を食いしばり、立ち上がる。
身体が重い。
視界が揺れる。
それでも。
「……ありがとう」
低く、でも確かな声で言う。
「……でも、ここからは――」
言い切る前に、地上から爆音。
魔族の叫び声が、はっきりと近づいてきた。
――気づかれ始めている。
「フィオナ!」
双子が同時に手を伸ばす。
フィオナは一瞬だけ迷い――すぐに決断した。
「……走るわよ」
「うん!」
「いっしょ!」
三人は、戦場の裏側へと駆け出した。
そのとき。
遠く、高台で。
ティアナが、ふっと振り返る。
「……あら?」
視線が、地下の方向を捉える。
魔族側が突撃に夢中になっている、この一瞬。
――奪われた。
ティアナは、楽しそうに笑った。
「……なるほど。そう来たのね」
戦場の喧騒の中で、小さな救出劇が、確かに成功していた。




