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ティアナの遊び

 魔族の城の高所。

 黒い窓の前に、ティアナは肘をついていた。


 戦支度はすでに始まっている。

 兵の配置、結界の再構築、観測魔術の再調整。

 それらはすべて部下に任せ、彼女自身は――動かない。


 必要がないからだ。


 この状況そのものが、もう“楽しい”。


「……ふふ」


 低く、喉で笑う。


 ルチアナ王国が動いた。

 それは確かだ。


 魔力の流れが、規則正しくこちらへ向かっている。

 慎重で、遅く、それでも確実な進軍。


 だが、ティアナの意識はそこにない。


 ――視線は、ただひとつ。


(……あ)


 ほんの一瞬。

 ごく微細な“揺れ”。


 拘束区画の方向から、星霊術が確認された。


 ティアナは、ゆっくりと顔を上げる。


「気づいたわね」


 誰に言うでもなく、そう呟いた。


 魔力を使ったわけじゃない。

 探知したわけでもない。


 ただ、知っているのだ。


 星霊族特有の感覚が、外の世界と噛み合った瞬間の、あの微かな違和感を。


「……なるほど」


 ティアナは指先を組み、少し楽しそうに首を傾げる。


「迎撃の準備を感じ取った、ってところかしら」


 早い。

 思ったよりも。


 普通なら、拘束され、隔離され、魔力も自由にならない状況で――

 そこまで“察する”ことはできない。


「……気づいたなら、次はどうする?」


 逃げるか。

 待つか。

 それとも、何かを仕掛けるか。


 どれを選んでもいい。


 むしろ――

 選ばせること自体が、愉しい。


 ティアナは、くすりと笑った。


「ルチアナ王国が動いたことを知って、それでも大人しくしていられる子じゃないでしょう?」


 窓の外で、魔族の軍が静かに整列していく。

 迎撃の準備は、ほぼ完了だ。


 その様子を背にしながら、ティアナはゆっくりと踵を返す。


「……今日は、顔を見に行こうかしら」


 それは“様子見”ではない。

 確認でもない。


 ただ――

 気づいた者の、次の表情を見るため。


 ティアナの足取りは軽かった。


 まるで、これから始まるのが戦争ではなく、心待ちにしていた“遊び”であるかのように。

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