目覚め
意識が、ゆっくりと浮上する。
最初に戻ってきたのは痛みではなく、
――失敗した、という事実だった。
重いまぶたを開くと、見覚えのある天井。
同じ拘束。
同じ静けさ。
(……戻された)
その認識が、冷たく胸に落ちる。
「目、覚めた?」
声はすぐ近くからだった。
フィオナは息を止めることも、声の主を探すこともしない。
分かっていたからだ。
「……」
フィオナは何も言わない。
言葉を選ぶ前に、何も与えないと決めた。
ティアナは小さく笑った。
「よく逃げたわね」
褒めるような口調。
けれど、そこに温度はない。
「正直、もう少し早く折れると思ってた」
椅子が、静かに軋む。
ティアナが立ち上がり、ゆっくりと近づいてくる。
フィオナは目を逸らさない。
逸らした瞬間、“負け”になると分かっている。
ティアナは、彼女のすぐ前で足を止めた。
「でも――」
声が、少しだけ低くなる。
「次は、ないよ」
その言葉は、脅しではなかった。
宣告でもない。
事実の確認だった。
フィオナの喉が、わずかに鳴る。
それでも、声は出さない。
「逃げようとした。魔力を使った。助けを呼ぼうとした」
一つひとつ、淡々と並べられる。
「だから次は、“逃げようと考える前”に終わらせる」
ティアナは、ふっと微笑んだ。
「ね、簡単でしょ?」
フィオナの胸の奥で、何かが震える。
恐怖。
怒り。
それよりも強い――悔しさ。
(……でも)
まだ、折れてはいない。
ティアナはそれを見抜いたのか、少しだけ目を細めた。
「その顔」
くすっと、楽しそうに笑う。
「いいわ。まだ壊れてない」
そして、耳元に顔を寄せて、低く囁いた。
「だからこそ――ここからが、本番」
距離が離れる。
足音が、扉の向こうへ消えていく。
残された静寂の中で、フィオナはゆっくりと息を吐いた。
(……次は、ない)
そう言われた。
――だから。
(次で、決める)
拘束されたまま、彼女の目は、まだ死んでいなかった。




