逃走劇は成功?失敗?
夜明け前の森は、異様なほど静かだった。
フィオナは倒れ込むように膝をつき、荒い呼吸を整える。
逃げ切ったとは言えない。
ただ、“追われていない今”を生き延びただけだ。
(……このままでは、また捕まる)
足は震え、魔力の巡りも不安定。
それでも――判断は、はっきりしていた。
知らせなければ。
お父さまに。
“生きている”ことを。
フィオナはゆっくりと立ち上がり、杖を地面に突き立てた。
使うのは攻撃魔術じゃない。
隠蔽でもない。
“観測されるための魔術”。
(……これを使えば、わたしの居場所は完全に露見する)
(魔族にも、王城にも)
一瞬だけ、迷いがよぎる。
それでも選択肢は一つしかない。
「座標、固定」
地面に、氷の星紋が広がった。
円環。
収束。
そして、解放。
――ふわり。
爆発も、閃光もない。
ただ、世界の上層に向かって、一本の“冷たい信号”が放たれる。
それは攻撃ではない。
祈りでもない。
**「ここにいる」**という、存在の宣言。
同時刻――
ルチアナ王城、観測塔。
魔術士の一人が、息を呑んだ。
「……魔力反応、検知!」
「種類は!?」
「氷属性……です。」
別の術士が顔色を変える。
「座標、割り出します!……っ、王都から北東、魔族領域寄りです!」
観測室が一気にざわめく。
「この魔力……間違いない」
ファシード公爵の声が震えた。
「――フィオナ殿下です」
その名を聞いた瞬間、国王は、玉座から立ち上がっていた。
「全速で向かえ。救出部隊を向かわせろ!!」
その頃、森の中。
フィオナは杖を支えに立っていたが、魔術が消えた瞬間、力が抜けた。
「……届いた、はず……」
視界が暗くなる。
それでも、倒れる前に小さく息を吐いた。
(これで……ひとりじゃない)
遠くで、何かが動いた気配がする。
魔族か。
それとも――。
フィオナは、意識が落ちる直前、空を見上げた。
夜明けの色が、ほんのわずかに滲み始めていた。




