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絶望的な状況

足音は、いつもより早く聞こえた。


 それだけで、フィオナは分かる。


 扉が開く音。

 鎖の軋み。

 そして、楽しげな吐息。


「おはよう、フィオナ」


 返事はしない。

 できないのではなく、しない。


 それでもティアナは気にしない。


「ねえ、知ってる?」


 問いかけるようでいて、答えを求めていない声。


「国王、かなり焦ってるみたいよ」


 フィオナの指先が、ほんのわずかに震えた。


「探してる。必死に。でもね――見つからない」


 くすり、と笑う。


「あなたを連れてきた“場所”がね、人間の認識から、少しずれてるの」


 わざと、間を置く。


「……だから今ごろ、『もう死んでいる可能性』って言葉が出始めてる」


 胸の奥が、冷える。


 それでも顔には出さない。


「国王は、まだ否定してるけど」


 ティアナは一歩、近づいた。


「でもね。周りは“覚悟”を始めてる」


 フィオナは唇を噛む。


 ――それを、言わせたい。


 ティアナは、その反応を見逃さない。


「かわいそうね」


 同情の色は、まったくない。


「あなたがここで、どんな顔して耐えてるかなんて、誰も知らない」


 しゃがみ込み、視線を合わせる。


「ねえ、フィオナ」


 低く、甘い声。


「もし助けが来るとしても――それ、間に合うと思う?」


 フィオナの呼吸が、わずかに乱れた。


 沈黙。


 それだけで、十分だった。


「今の顔、いいわ」


 満足そうに立ち上がる。


「希望を捨ててないのに、現実はちゃんと理解してる顔」


 背を向けて、歩き出す。


「安心して。まだ壊さない」


 振り返り、笑う。


「だって――“期待したまま削る”方が、ずっと楽しいもの」


 扉が閉まる。


 フィオナは、しばらく動けなかった。


 心が折れたわけじゃない。

 希望を捨てたわけでもない。


 ただ――

 時間が、敵に回ったと理解しただけ。


(……それでも)


 胸の奥で、冷たい何かが脈打つ。


(……待ってるだけじゃ、終われない)


 氷の気配が、ほんの一瞬だけ、空気を揺らした。

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