中枢会議室
重い沈黙が、円卓を支配していた。
地図の上には、無数の印。
探索済み区域、反応のあった地点、そして――何も得られなかった空白。
「……ティアナ殿下が連れ拐われて1週間です」
報告役の術士が、低い声で告げる。
「国内、国境周辺、精霊の森――すべて調べましたが、フィオナ殿下の魔力反応は一切、確認できません」
国王は椅子に深く腰を下ろしたまま、動かない。
「隠蔽術式の可能性は?」
「考慮しています。ですが、殿下の魔力は特異です。完全遮断は、通常の術式では不可能に近い」
重臣の一人が、唇を引き結ぶ。
「……つまり」
誰もが、続きを言いたくなかった。
国王が、ゆっくりと口を開く。
「この国の術では届かない場所にいる、ということか」
その一言で、空気が冷えた。
別の術士が、恐る恐る補足する。
「仮に……ですが魔族領域、あるいはそれに準ずる“外界”へ連れ去られた場合――追跡術式は、ほぼ無力です」
「やはり、ティアナ王妃は生きているのかと思われます……フィオナ殿下の魔力に匹敵し、なおかつ、すべての理に干渉できる存在」
国王の目が、伏せられる。
「……ティアナは死んだはずだ。」
「はい」
ファシード公爵は続けた。
「もし、彼女が“魔族側に堕ちている”とすれば――殿下は、交渉材料としても、器としても……あまりにも価値が高すぎる」
その言葉は、あまりに現実的だった。
「……生きている可能性は?」
国王の問いに、誰も即答できない。
やがて、魔術士が口を開いた。
「……“生かされている”可能性は、高いかと」
国王の眉が、わずかに動く。
「理由は」
「殿下は、殺すには惜しすぎる存在です。ゆういつ、ティアナ王妃の血を注いでいらっしゃる。」
それは、希望でもあり、絶望でもあった。
国王は、深く息を吐く。
「……最悪の仮定を置こう」
その声は、王としてのものだった。
「フィオナは現在、魔族領域に拘束されている。目的は殺害ではなく、確保、あるいは利用」
誰も、反論しない。
「その場合――」
国王は、ゆっくり立ち上がった。
「時間が経つほど、不利になる」
視線が、集まる。
「準備を進めろ。外交ではない。救出を前提とした、最悪の事態への備えだ」
その場にいた全員が、息を呑んだ。
――王が、決断した。
その頃。
誰も知らない場所で、フィオナは静かに耐えている。
昨日も今日も忘れてしまって申し訳ないです!!!
そのお詫びも込めて12月31日まで毎日2話更新しようと思っています!




