ティアナの思惑
扉が閉じたあとも、ティアナはしばらくその場を離れなかった。
背を向けたまま、何かを思案するように指先を軽く鳴らす。
(……思ったより、早い)
拘束室の奥。
視線を向けなくても、フィオナの気配はわかる。
心は折れていない。
だが、体が悲鳴をあげている。
それが何より面白かった。
独り言のように呟く。
魔力封じ。拘束。孤立。
普通なら、ここで暴れるか、泣くか、諦める。
だがフィオナは違う。
(抵抗しない代わりに……内側で耐えてる)
それは、壊す側にとって一番厄介で、一番“壊しがい”のある型だ。
ティアナは歩きながら考える。
(次は、力じゃない)
痛みでもない。
恐怖でもない。
それらは“分かりやすく”壊れる。
フィオナに必要なのは――
「……選択肢、か」
立ち止まり、口角を上げる。
何かを“守らせる”。
何かを“選ばせる”。
そして、どちらを選んでも後悔する状況。
(星霊族の血は、責任感が強い)
母を知っているからこその分析。
だからこそ、よく効く。
「無力を自覚させるか……」
それとも、
「“自分がここにいる理由”を、突きつけるか」
どちらも、すぐには壊れない。
だが、確実に“ひび”が入る。
ティアナは小さく笑った。
「……ああ、だめだ」
楽しそうに。
「順番を間違えたら、すぐ終わっちゃう」
それは後悔ではない。
贅沢な悩みだ。
回廊の奥、魔族たちが自然と道を空ける。
ティアナは歩きながら、結論を出した。
(次は――希望を与えてから、奪う)
拘束はそのまま。
扱いも変えない。
けれど、“言葉”だけを変える。
救いがあるかもしれない、と思わせてから、
それが届かないと理解させる。
「……楽しくなってきた」
その声は、弾んでいた。
そして心の奥で、
誰にも聞こえない場所で、
ほんの一瞬だけ――
(……壊れるなよ)
そんな感情が、かすめた。
だがティアナは、それを即座に切り捨てる。
「壊れるかどうかは……あなた次第」
次に拘束室を開けるとき、もう“様子見”ではない。
それを決めたティアナの足取りは、驚くほど軽かった。




