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ティアナから見て

 扉が、静かに開いた。


 重い音はしない。

 魔族の城らしく、空気だけがわずかに動く。


「……まだ生きてる?」


 軽い調子の声。

 冗談めいているのに、刃のように冷たい。


 ティアナはゆっくりと中へ入った。


 拘束されたままのフィオナは、顔を上げない。

 視線は前。

 姿勢も、昨日までと変わらない。


 ――だからこそ。


 ティアナは、ほんの一瞬で眉を動かした。


(……違う)


 歩みを止める。


 魔力は流れていない。

 抵抗の兆しもない。

 表情も、崩れていない。


 それなのに――


「……呼吸」


 小さく呟く。


 一定だったはずのリズムが、わずかに乱れている。

 意識して抑えているが、完全には隠せていない。


 ティアナは、楽しそうに口角を上げた。


「へえ……」


 一歩、近づく。


「まだ何もしてないのに?」


 フィオナは反応しない。

 けれど、その沈黙が“普通すぎる”ことに、ティアナは気づいた。


(反応が、遅い)


 魔力の感知。

 気配への反射。


 星霊族の血を引く者なら、無意識にやっているはずのものが、一拍、遅れている。


 ティアナは、鎖の近くまで来て、しゃがみ込む。


「ねえ」


 顔を覗き込む。


「疲れてる?」


 挑発でも、慰めでもない。

 ただの確認。


 フィオナは、わずかに視線を動かした。


「……問題ありません」


 声は、落ち着いている。

 だが、その落ち着きが“作られている”と、ティアナには分かる。


 ティアナは、くすっと笑った。


「嘘つき」


 楽しそうに。


 指先で、フィオナの額の近くをなぞる。

 触れない。

 けれど、距離は近い。


 ――フィオナのこの状態が見抜かれてしまった。


 ティアナの目が、愉悦に細まる。


「いい顔してるよ」


「……何が、ですか」


「壊れ始める直前の顔」


 はっきりと言い切り、背を向ける。


「今日は、ここまで」


 扉へ向かいながら、楽しげに付け加えた。


「まだ持つでしょ?――あなた、思ってるよりずっと強い」


 それは褒め言葉であり、同時に、猶予が終わりつつあるという宣告だった。


 扉が閉まる。


 フィオナは、しばらく動けなかった。


 ――気づかれた。


 しかも、完全に。


(……急がないと)


 体はまだ動く。

 意識も、ある。


 けれど、ティアナはもう“兆し”を掴んだ。


 次に来るのは、“様子見”では済まない。


 拘束室の静けさの中で、フィオナは初めて――時間が味方ではないと、はっきり悟った。

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