追い詰められる痛み
灯りは一定。
寒さも、音も、変わらない。
だからこそ、変化はごくわずかだった。
――呼吸が、少しだけ浅い。
フィオナはそれに気づいていない。
いつも通りのつもりで息を整えている。
だが胸の奥で、空気が最後まで入らず、どこかで止まる。
(……大丈夫)
そう思った瞬間、喉の奥がひりついた。
理由はない。
苦しいほどではない。
ただ、“引っかかる”。
指先が、わずかに痺れている。
枷のせいだろう、と判断しようとして――
そこで一瞬、思考が遅れた。
(……あれ)
判断が、半拍遅れる。
それが、いちばん異常だった。
輪郭が、ぼやける。
魔力そのものは感じられる。
枯渇しているわけでも、暴走しているわけでもない。
けれど、意識と魔力の距離が、少し遠い。
まるで、薄い膜が一枚増えたみたいに。
フィオナは小さく眉を寄せる。
(……集中力が、落ちてる)
それを“疲労”だと認めるのは、簡単だった。
けれど同時に、胸の奥に嫌な感覚が残る。
――これは、ただの疲れじゃない。
次の瞬間。
視界の端が、一瞬だけ暗くなった。
「……っ」
声にならない息が漏れる。
意識が途切れるほどではない。
倒れることもない。
だが、世界が一瞬だけ遠のく。
フィオナは反射的に奥歯を噛みしめた。
まだ、耐えられる。
ここで崩れるわけにはいかない。
けれど――
心拍が、わずかに速い。
それに気づいたことで、逆に制御が乱れる。
胸の奥で、魔力が微かに震えた。
使っていないのに。
流してもいないのに。
魔力が震えたことで装置が作動してしまった。
「っぁ……くっ」
痛い、痛い、痛い………
その時――
扉の向こうで、誰かが立ち止まった気配。
気配だけで、音はない。
フィオナは、すぐに顔を上げなかった。
呼吸を整え、乱れを押し込める。
(……見せない)
弱っていることも。
限界に近づいていることも。
けれど、確かに――崩れ始めている。
ほんの小さな、けれど無視できない異変。
それは、静かな拘束室の中で、確実に、フィオナを追い詰め始めていた。
昨日投稿時間が遅れてしまって申し訳ないですーーー




