ルチアナ王国が動いた?
さっきから外が騒がしい。
一体何が起こったのかと思い、話を聞いているとどうやら、ルチアナ王国側が、沈黙を破ったと言うことがわかった。
その事実に、安堵が込み上げ――
同時に、強い焦りが胸を締め付ける。
(来ないで……とは、言えない)
相手は、ティアナだ。
もし正面から衝突すれば、被害は――。
その時。
拘束室の扉の向こうで、足音が止まった。
ゆっくりと、わざとらしく。
そして、聞き覚えのある声。
「……ふふ」
低く、楽しげな笑い。
「今の、感じた?」
扉の向こうから、ティアナの声が落ちてくる。
「外が、ざわざわしてる。――楽しくなってきたわね」
フィオナは目を開けた。
暗闇の中、その声だけが鮮明だ。
(……やっぱり、気づいてる)
ティアナは続ける。
「ルチアナ王国側が動いた。あなたのお父さんのおかげかしらね。」
その言い方に、フィオナの胸が軋む。
「……心配しなくていいわ。まだ、誰も殺してないもの」
くす、と笑う気配。
「だってあなた、反撃が来る前の方が、面白い顔をするんだもの」
扉の向こうで、足音が遠ざかる。
再び、拘束室は静寂に包まれた。
けれど――もう、完全な静けさではない。
フィオナは、ゆっくりと息を吐いた。
(……時間は、少ない)
ルチアナ王国側は動いた。
ティアナも、それを待っている。
なら――
(私が、耐えないと)
この場で引き延ばす。
感情を悟らせない。
“娘”である前に、王族として。
冷たい鎖の感触の中で、フィオナの目に、静かな決意が宿った。




