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魔族拘束室

 意識が戻ったとき、

 フィオナは何一つ、動かせなかった。


 手首も、足首も、首元さえも――

 身体を縫い止めるように、魔力の拘束具が絡みついている。


「……っ」


 息を吸おうとすると、胸元の拘束がわずかに締まった。

 苦しいほどではない。

 だが、“逆らえば悪化する”と即座に理解できる圧。


 床は石。

 冷気が、容赦なく背中から体力を奪っていく。


(……魔族の……国……)


 天井は高く、光源はない。

 それでも空間が見えるのは、壁そのものが赤黒く淡く光っているからだった。


「起きたのね」


 反射的に顔を上げようとするが、首の拘束がそれを許さない。

 視線だけを動かす。


 そこにいたのは、ティアナだった。


 魔族の装束。

 そして――楽しそうな表情。


「……ここは……」


「中央拘束室よ」


 さらりと言う。


「逃走不能。魔力遮断。星霊術は完全封殺。――まさにあなた専用の部屋ね。」


 フィオナの喉が、ひくりと鳴った。


「……最初から……こうするつもりでしたか」


「ええ、でないと、あなたは暴れるでしょう?」


 ティアナは歩み寄り、フィオナの前に屈む。

 その距離の近さが、逃げられない事実を突きつける。


「安心して。何度も言うけど、今のところ殺す予定はないから。」


 指先が、拘束具に触れる。


 ――瞬間。


 体内の魔力が、無理やり引きずり出される感覚。


「……っ!」


 声にならない息が漏れる。

 一気に全身が痛みで耐えられなくなる。


「別に拷問したいわけではないのよ。」


 淡々と、しかし楽しそうに言う。


「調整よ。あなたの魔力は濃すぎる。放っておくと、この国が壊れる」


 フィオナは歯を食いしばる。


「怒ってる?」


 ティアナが首を傾げる。


 拘束が、ほんの少しだけ強まる。

 呼吸が、浅くなる。


 フィオナは、ゆっくりと息を整えようとする。

 だが魔力を巡らせようとした瞬間――


 拘束が即座に反応する。


 全身が、強制的に静止させられた。


「ほら」


 ティアナが、満足そうに微笑む。


「抵抗=苦しくなるって、ちゃんと理解できるでしょう?」


 フィオナの瞳が、揺れる。


「……っ……あなたは……」


 言葉が、続かない。


 母の姿をして。

 母ではない。


「私は、魔族の将。そしてあなたは――」


 耳元で、囁く。


「この国にとって、危険すぎる客人」


 ティアナは立ち上がる。


「今日はここまで。体力と魔力を削るだけ」


 扉の方へ歩きながら、振り返る。


「逃げようとしたら、もっと丁寧にするわ」


 軽い口調。

 だが、冗談ではない。


 扉が閉まる。


 重い音が、拘束室に響き渡った。

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