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終わりの見えない戦い

 氷の断層が砕け散る。


 フィオナは跳躍し、空中で体勢を整えながら星氷を展開した。


「《星氷・散華》!」


 無数の氷片が星の軌道を描き、ティアナへ降り注ぐ。


 だが――


「楽しい!」


 その一言とともに、黒い魔力が爆ぜた。


 氷片は空中で弾かれ、霧散する。


「本当に、楽しいわ!」


 ティアナは笑っている。

 まるで訓練相手と手合わせしているかのように。


「ねえ、見て。ちゃんと考えてる。無駄撃ちしないし、位置取りもいい」


 一歩、また一歩と詰めてくる。


「でも――甘いわね。」


 踏み込みと同時に、衝撃波。


 フィオナは結界を張るが、膝が床を擦った。


「っ……!」


「いい反応!そう、その判断!ああ、楽しい、楽しい!」


 声が、やけに弾んでいる。


 フィオナの胸がざわつく。


(……母は、こんなふうに……)


 思考を振り払う。


 冷気を集中させる。


「《星氷・環封》!」


 円状の氷壁が瞬時に立ち上がる。

 閉じ込めるのではない。動きを遅らせるための術。


 しかし――


「ふふ。発想はいいのに」


 ティアナの指が、軽く触れる。


 氷壁が、内側から溶け落ちた。


「力を“削る”つもりだった?でもそれ、私相手には足りない」


 ティアナは楽しそうに首を鳴らす。


「ねえ、もっと来なさい。遠慮しないで」


 魔力がさらに膨れ上がる。


「こういう戦い……久しぶりなの!」


 フィオナは歯を噛みしめる。


(楽しんでる……戦うことを……)


 息を整え、氷を一点に圧縮する。


「《星氷・刺突》!」


 鋭い氷槍が一直線に放たれる。


 ――命中。


 肩口を貫いた。


 だが。


「……っ!」


 ティアナは一瞬驚いた顔をし、すぐに声を上げる。


「当たった!ねえ、見た!?当たったわよ!」


 肩の傷を気にする様子もなく、笑う。


「やだ、最高。こんなに楽しいの、いつぶりかしら!」


 フィオナの手が、震えた。


(……あれを……母の声で……)


「どうしたの?」


 ティアナはにじり寄る。


「止まったらダメ。止まったら――あなたは終わりよ?」


 黒い魔力が奔流となる。


 フィオナは後退しながら、必死に時間を計算する。


(……まだ)


(まだ、来ない)


 ――だから、耐える。


 氷と水魔法を重ね、崩れかけの結界を再構築する。


「……っ!」


「いい顔!」


 ティアナは歓喜に満ちた声で叫ぶ。


「必死で、生き延びようとしてる顔!」


 剣を強く握りしめる。


「……時間は、稼がせてもらいます」


 その静かな宣言に、ティアナは心底楽しそうに笑った。


「最高。ねえ、もっと楽しませて?」


 戦場に、再び魔力が渦巻く。


 それは――“母の姿をした魔族”と戦う、終わりの見えない時間稼ぎだった。

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