魔力観測塔の異常
王城を出てすぐの高台にそびえる、白石の塔――魔力観測塔。
王都全域の魔力流を常時測定する、国の中枢とも言える施設だ。
塔の入口には緊張した表情の術士たちが並び、フィオナが姿を見せると慌てて道を開けた。
「フィオナ殿下! こちらへ!」
シリウスがフィオナの前に一歩出て軽く会釈すると、術士たちはすぐに態度を正す。
内部へ案内されると、観測室はすでに魔道具の光が弱く揺らぎ、いつもの規則的な音が乱れていた。
「……思ったよりひどいわね」
フィオナは眉を寄せる。
魔力計の針は不規則に震え、魔法陣の中心に浮かぶ光球はまるで“息切れ”しているように明滅している。
「殿下、昨夜からずっとこの状態でして……」
「どんな術士でもまったく反応が安定しません……」
職員が焦り混じりに説明する。
フィオナは返事をせず、観測装置に歩み寄ると、手袋越しにそっと触れる。
(……魔力の流れが細い。でもこれは“弱っている”のとは違う)
わずかな違和感が指先に伝わる。
何かが“ずれている”――そんな感じ。
「シリウス、魔力炉の出力変動は?」
「こちらです。記録を遡りましたが……変動の瞬間がありません」
「変動がない?」
「はい。通常の揺らぎさえない状態です。」
フィオナの目が細くなる。
(……魔力が弱っているのではなく、“観測されなくなってる”?)
観測塔の異常は周囲を騒がせているが、根本は違うのかもしれない。
彼女は光球に手をかざし、そっと魔力を流し込む。
光はかすかに反応し、ふっと明るくなる――が、すぐに曇る。
「やっぱり。“観測装置のほう”が魔力を捉えきれていないわ」
「つまり……装置側の故障ということでしょうか?」
「……故障ならこんな現象は起きない。王都中の装置が同じようにおかしいなんて、ありえないでしょ」
フィオナは光球から手を離し、小さく息を吸った。
「これは――《外部からの干渉》よ」
室内がざわつく。
外部。それは、誰かの意思で起きている可能性を示す言葉。
「観測塔の魔導式そのものが、何かに“歪められて”いる。魔力が弱まったんじゃない。正しく届かなくされているの」
「……そんなこと、誰が……」
シリウスが低くつぶやく。
「目的はまだわからない。でも――」
フィオナの視線が塔の中心へと向く。
まるでその奥に、何者かの意図が隠れているかのように。
「――原因は“人為的”。間違いないわ」
観測塔に静かな緊張が張りつめた。




