練習中
木剣がぶつかりあう乾いた音が、訓練場に響く。
エルザリアは最初こそ力を抑えていたが、
フィオナの足取りが安定しているのを見て、
徐々に本気の速度へと切り替えた。
(……動けてる。さっきまで倒れそうだったのに)
エルザリアは一瞬だけ驚き、そのまま踏み込みの速度を上げる。
横からの速い打ち込み。
フィオナは反射的に剣を横に倒して受け流した。
「っ……!」
刃の角度が完璧だった。
エルザリアの腕にかかる衝撃が一瞬だけ軽くなる。
次の瞬間、フィオナはすっと足を踏み替え、そのまま前へ重心を移した。
それは――昨夜、氷魔術の感覚を掴んだ時に無意識に覚えた”流れ”。
身体の軸がぶれず、動線が滑らか。
まるで足元に薄氷が伸び、その上をすべるような自然なステップだった。
エルザリアの目が一気に見開かれる。
(……は、速い。昨日までとまるで違う……!よく一晩でここまで成長したわね……)
「フィオナ――」
呼びかける暇もなく、フィオナが彼女の懐へ踏み込んでくる。
エルザリアは慌てて防御に回った。
木剣同士が、鋭く、しかし流れるように交差する。
フィオナ自身も驚いていた。
氷がきらめくような、あの“流れ”。
それが剣の動きと重なって、今まで出来なかった速度と正確さを生み出していた。
エルザリアの木剣を受け止めると、フィオナは自然と力を逃がすように後ろへ引き、次の一手を組み立てる。
その動きに――
エルザリアが一瞬、息を呑んだ。
「……嘘でしょ」
思わず口から漏れた。
フィオナがこんな戦い方をするなんて、想像したこともなかった。
「エルザリア様……?」
「嘘……でしょ?」
半ば本気の声だった。
フィオナは困惑しながらも、
ゆっくりと剣を下ろした。
「え……えっと。さっきの動き、私にもよくわからなくて……」
「“わからない”でそこまで動けるって……!」
エルザリアは額に手を当て、信じられないというようにフィオナを見つめる。
だが、次の瞬間――
「……すごいじゃない。まるで別人みたいだったわよ」
その声は、驚きと、ほんの少しの誇らしさを含んでいた。
夕日が傾き始め、二人の影が長く伸びていく。
フィオナは息を整えながら、まだ胸の奥がふわふわするような感覚に戸惑っていた。
(……どうしてこんなにうまくできたの……?
あの“氷の流れ”と……関係がある……?)
彼女の中で、昨夜掴んだ感覚が、確かに形になり始めていた。




