4日目の練習
静かな午後。
薄い毛布の下で、フィオナはゆっくりと目を開けた。
(……寝てた……?)
頭は少しぼんやりしていたが、朝よりもずいぶん軽くなっている。
体を起こすと、毛布が丁寧に整えられているのに気づいた。
――誰かがかけ直してくれた。
心当たりは一人しかいない。
(……また、様子を見にきたのね。あの人)
苦笑しつつも、胸の奥がほんのり温かくなる。
フィオナは軽く伸びをして、「大丈夫、大丈夫」と自分に言い聞かせるように立ち上がった。
「……そろそろ、戻らないと」
そう呟き、訓練場へ向かう。
⸻
外の空気は冷たく澄んでいた。
フィオナが訓練場へ戻ると、エルザリアは木剣を手に、一人で型を確認していた。
その動きは鋭く、力強く、そしてどこか焦りを含んでいる。
「エルザリア様」
声をかけると、エルザリアがぴたりと動きを止めた。
振り返った彼女は、一瞬だけ驚いた目をしたあと、
すぐに眉を寄せた。
「……起きたの?まだ休んでてよかったのに」
「もう大丈夫です。それより、訓練の続きを――」
言い切る前に、エルザリアが近づいてきて、じっとフィオナの顔色を確認した。
「本当に?無理してない?」
「してませんよ。寝たら楽になりましたから」
フィオナが微笑むと、エルザリアはわずかに息をついた。
「……まったく。あなたはいつも平気なふりをする」
「平気ですよ」
「はいはい。その“平気”は信用してないけど」
皮肉めいた口調だが、目はどこか安堵している。
エルザリアは木剣を握り直し、
地面に軽く足を開いた。
「……じゃあ、再開しましょう。無理したらすぐ止めるからね?」
「ええ。お願いします」
フィオナも剣を構える。
風が吹き抜け、砂が小さく舞った。
先ほどまでの静けさとは違い、緊張感が戻ってくる。
エルザリアが静かに言った。
「――行くわよ。本気でいくから、覚悟しなさいね。」
フィオナは深く息を吸い、
その視線をまっすぐ受け止めた。
「はい。お手柔らかに」
訓練場に、再び木剣の音が響き始めた。




