4日目の昼
昼の光がやわらかく差し込むフィオナの部屋。
厚めのカーテンは半分だけ開かれ、
窓から入る風が、ベッド脇の小さな風鈴をかすかに揺らしていた。
フィオナはベッドの上で横になり、静かな寝息を立てている。
髪は少し乱れ、片手は胸元でぎゅっと握られたまま。
きっと何か考えながら眠りに落ちたのだろう。
そこへ――
ノックは、されない。
ほんの微かな魔力の揺れとともに、扉が静かに開いた。
入ってきたのはエルザリアだった。
足音ひとつ立てず、部屋の空気だけがすこし変わる。
(……やっぱり無理をしていたのね)
眠るフィオナの顔を見た瞬間、エルザリアの眉がかすかに下がった。
ベッドに近づくと、フィオナの頬に触れそうで触れない距離まで手をかざす。
魔力の流れを確かめているのだ。
――その手が、そっと止まった。
(魔力は……安定してきた。昨夜の無茶が抜けていってるわ)
安心したように、ほんのわずか息をつく。
フィオナが寝返りを打つ。
乱れた毛先が頬にかかる。
エルザリアは自然な動作で、指先でその髪を耳にかけてやった。
触れ方は驚くほどやさしい。
「……本当に、子どもみたいに無茶をするんだから」
そう小さく呟く声は、叱るというよりも、心配があふれたものだった。
フィオナは寝たまま眉を動かし、か細く言った。
「……ん、エルザリア……さま……」
寝言だった。
エルザリアは少し驚いたようにまばたきをし、それから――ゆっくり微笑んだ。
(……寝てても私を呼ぶのね。ふふ……)
ベッド脇の椅子に軽く腰をかけ、フィオナが安心して眠れるように、魔力の流れを整える結界を小さく張る。
その間もフィオナは静かに眠り続けている。
「焦らなくていいわ。……あなたは、必ずできるようになる」
誰にも聞こえないほど小さな声だった。
エルザリアは、そんな言葉を残すと、椅子から立ち上がり――
部屋の扉を静かに閉めて出ていった。
また、風鈴だけがかすかに音を立てる。
フィオナはその微かな響きの中で、穏やかな眠りを続けていた。




