朝ごはんのあと
フィオナが双子と静かに笑っている――
その光景をしばらく眺めていたエルザリアは、手にしていたカップを置くと、歩み寄ってきた。
「……フィオナ」
名前を呼ばれ、フィオナははっと姿勢を正す。
「は、はい……?」
エルザリアはふと視線を伏せ、指先で彼女のカップに残ったスープの縁を軽く叩いた。
「スープ、三分の一も減っていないわね」
「え……あ、すみません。その……ちょっと、食欲がなくて……」
「食欲がないのは、魔力がまだきちんと戻っていない証拠よ」
その言葉に、フィオナの背筋がぴんと伸びる。
「……そんなに、ひどい状態なんですか?」
「自覚がないほうが問題ね」
けれどエルザリアの声音は叱責ではなく、どこか呆れたような、しかし優しい響きを帯びていた。
「あなた、夜明けまで自主練をしていたでしょう?」
「っ……」
フィオナは思わず言葉を失う。
リーシェとリーリアが、きょとんとした顔で彼女を見上げてくる。
「フィオナさま、ねむれなかったんですか?」
「フィオナさま、つかれちゃったの?」
「……ちょっとだけ、がんばりすぎただけよ」
フィオナが笑ってごまかすと、エルザリアは長く息を吐いた。
「“ちょっと”じゃないわ。魔力の流れがまだ揺れている。
訓練を続ければ確実に倒れるわよ」
淡々とした口調……なのに、不思議なほど心配が伝わる。
フィオナは少しだけ視線を落とした。
「……でも。昨日、できなかった分を……」
「休みなさい、フィオナ」
ぴたりと、エルザリアの声が重なった。
静かで、揺るぎない声。
双子も思わず口をつぐむほどの強さだった。
「あなたの努力は分かっているわ。夜明けまで感覚を探していたことも、たまたま成功した瞬間に嬉しくてやめられなかったことも」
「……見てたんですね……」
「気づかないわけないでしょう。私はあなたの師なのだから。
それに――」
エルザリアは少しだけ目を細めた。
「倒れそうなのに必死で立っている生徒を、放っておけるほど冷たくはないわ」
フィオナは、急に胸が熱くなるのを感じた。
「……すみません。でも……ありがとうございます」
「謝る必要はないわ。
ただ、今日は“完全休養”よ。部屋で休みなさい。双子の訓練を見に行くのも禁止」
「っ……はい」
素直に頭を下げると、
「ふぃおなさま、おやすみするの?」
「ねんね?ブランケットいる?」
双子が左右から心配そうに覗き込んでくる。
「ありがとう、ふたりとも。……今日は少しだけ休むわ」
その答えに、リーシェはくすっと笑った。
「じゃあ、げんきになったら、またいっしょにあそんでね!」
リーリアも手を振る。
「またあとでねー!」
フィオナはゆっくり立ち上がり、深く息をついた。
食堂の扉を出る直前、背中にエルザリアの声が届く。
「フィオナ」
「はい?」
「回復したら――昨日の続きをしましょう。
“混ざる感覚”は、必ずつかめる。焦らなくていいわ」
フィオナは目を細めて、小さく頷いた。
「……はい。必ず」
そうして食堂を後にした。
疲れた足取りでも、その表情はどこか柔らかかった。
お待たせしましたー!!!
ようやく復帰します!
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