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4日目の朝

やがて、東の空が白んでいく。

 フィオナはまだエルザリアが見ていることに気づかない。

 何十回目かの氷の形成に成功し、小さく息を吐き、次の魔力を練ろうとして――


 そこでようやく足元がふらついた。


「……っ」


 けれど倒れる前に、背中を支える腕が伸びた。


「――そこまでよ、フィオナ」


 静かな声。

 ようやく彼女は、ずっとそばにいたエルザリアの存在に気づくのだった。


 力の抜けた身体を支えられて、フィオナはようやく状況を理解した。


「エ、エルザリア様……?いつから……」


「途中からよ。気づかなかったみたいだけど」


 その言い方は冷静なのに、支える腕は驚くほど丁寧だった。


 フィオナは慌てて姿勢を立て直そうとするが、膝が震えている。


「あ、あの……大丈夫、です。まだ、練習――」


「だーめ。魔力、かなり減ってる。ここまでやったら倒れるだけよ」


 ぴしゃりと言われ、フィオナは俯いた。


「……できなかったのが悔しくて。昨日も、今日も……全然だめで。だから……」


「悔しいなら、明日のために休むの。倒れたらそこで終わりよ」


 正論すぎて、フィオナは返す言葉を失った。

 でも、悔しいからじゃない。

 もっと奥に、ずっと重たい理由がある。


 ――怖い。

 できなかったら……。


 言えない。そんな弱さ。


 けれどエルザリアは、フィオナの沈黙を別の意味で受け取ったらしい。

 ふっと息を吐き、少しだけ声音を柔らかくした。


「……でも、今日のは悪くなかったわよ」


「え?」


「流れが噛み合った瞬間、ちゃんと見てた。あんた、感覚を掴み始めてる。できるようになるのも時間の問題よ」


 思いもよらない評価に、胸がじんと熱くなる。


「わ、私……本当に、できるように……なりますか?」


「なるわよ。というか、なれるまでやるんでしょ?」


 それは呆れたような、でもどこか信じている声だった。


 フィオナは小さく笑ってしまった。


「……はい」


「なら、今日は終わり。歩ける?」


「あ、がんばります」


「頑張らなくていいから。ほら」


 エルザリアが少しだけ肩を貸す。

 フィオナは驚きつつ、その腕に体重を預けた。


 塔を出た頃には、東の空が淡い金色に染まり始めていた。


「……明日は、最初からちゃんと付いてるから」


「え?」


「見てない方が危なっかしい。倒れられても面倒だし」


 その“言い訳”に、フィオナはくすっと笑った。


「ありがとうございます、エルザリアさん」


「礼なんかいらないわよ。あんたが勝手に頑張ってるだけなんだから」


 でもその言葉とは裏腹に、エルザリアは最後まで手を離さなかった。

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