2日目の訓練
翌朝。
霧に包まれた精霊の訓練場は、昨日よりも静まり返っていた。
フィオナは杖を持ち、ゆっくりと中央へ歩く。
落ち着いた表情。
けれど胸の奥には、昨日うまくできたはずの魔法が“偶然だったのではないか”という不安が、薄く渦巻いていた。
「……今日こそ、形にしたい」
自分に言い聞かせるように、囁く。
指先から魔力を集め、空気を冷やし……星霊術《星氷》を構築しようとする。
――しかし。
ぱちっ、と小さな火花のように光が弾けただけで、何も起きない。
フィオナはまばたきをして、もう一度集中する。
「…………っ」
冷気が生まれない。
霧の粒子が揺れルだけで、凍る気配は一切ない。
三度、四度、五度。
形になるどころか、魔力が空気に溶けて消えていく感覚だけが続いた。
昨日の成功が、急に遠くなる。
「どうして……?」
声は静かで、落ち着いている。
けれどその瞳には、ごく小さく焦りが揺れた。
大人びているフィオナだからこそ――
できない自分を、誰より冷静に見つめてしまう。
だからこそ、余計に刺さる。
指をぎゅっと握り直す。
霧が淡い光を帯び、銀色の粒が漂う。
けれどそれは、フィオナの魔力を拒むかのように、触れた瞬間ふっと消える。
「……本当に……できない……」
足元に落ちる影が少し揺れた。
悔しさではなく、静かな焦燥。
胸の奥の氷が溶けていくような、落ち着かない感覚。
魔力を練っても、形にならない。
霧の精霊たちは、ただ遠くで見守っている。
昨日はできた。
確かにできた。
けれど今日は――なにもできない。
「……わたし、昨日のあれ……本当に自分の力だったの……?」
自分の声が、思ったより弱く聞こえる。
大人びた顔立ちのまま、フィオナは静かに息を吐いた。
一時間、二時間……
繰り返しても、結果は変わらない。
霧の中で、冷たさが生まれたのは、
フィオナの魔法ではなく、胸の中の失望だけだった。
結局この日、
フィオナは――一度も成功しないまま、時間だけが過ぎていった。
最後は言葉もない。
ただ杖を持ったまま、静かに目を伏せた。
「……明日こそ……」
その小さなつぶやきが、霧の中に溶けて消えた。
明日の6時にエルザリア視点投稿しますーーー
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