最後の器として
エルザリアはしばらくフィオナの瞳を見つめ――
やがて、ふっと小さく笑った。
「……なら、話は早いわ。」
「?」
「あなた、今のままじゃ王に狙われた時に“足りない”。星霊族の力は強すぎる。制御できなければ、あなた自身を壊す。」
その声音は厳しいが、どこか嬉しそうでもある。
エルザリアは背を向け、杖を軽く鳴らした。
洞窟の奥の霧が裂け、白い訓練場のような円形の空間が現れる。
「ここは……?」
「昔、ティアナに稽古をつけた場所よ。あの子は毎日泣きながら逃げて……でも次の日には戻ってきた。」
どこか懐かしむように目を細める。
そしてフィオナを振り返り、言った。
「フィオナ。あなたも今日からここで鍛えるわ。」
フィオナは驚かなかった。
ただ淡々と確認を取る。
「……どれほどの期間でしょう。」
「最低でも一週間。」
「……一週間で、成長できるでしょうか?」
「本人の意思次第よ。そもそも今からやるのは私たちが本来触れてはいけない世界の基盤……それに触れる前段階の訓練よ。」
エルザリアの指先が軽く弾かれると、霧が渦を巻き――
無数の細い銀の線が空間に広がり、まるで星図のように浮かんだ。
「これは……」
「世界を形づくる“因果の糸”。本来なら魔術師が目にすることすら許されない領域よ。」
フィオナはその光景を静かに見つめる。
驚きはあるが、怯えはない。
「触れられる……気がします。」
「ええ。あなたにしか触れられない。」
エルザリアがフィオナの前に立ち、静かに宣言した。
「フィオナ。今からあなたは、この森で“封じられた星霊族の魔術”に触れ、制御を学ぶ。食事も寝床も用意するわ。もちろんエレノアにもあなたが1週間ここにいることを伝えるわ。それに双子は私が守る。だから一週間、世界の理と向き合いなさい。」
双子はフィオナの服をぎゅっと掴んだ。
「ふぃおな……いっちゃうの……?」
「……ごめんね、行くわ。」
フィオナは静かに微笑む。
「でも、すぐ戻る。一週間なんて短いものよ。」
双子は不安げだが、彼らの守護紋が淡く輝く。
フィオナは二人の頭に手を置いた。
「あなたたちがいてくれる限り、私は大丈夫。」
その大人びた言葉に、双子は涙を堪えて頷く。
エルザリアは杖を肩に担ぎ、にやりと笑った。
「私、弟子に手を抜くタイプじゃないの。」
霧が渦を巻き、訓練場の空気が一気に張り詰める。
「最初の一日は、あなたの“魔力の癖”を叩き直す。二日目で星霊術式の基礎。三日目には……もう戦えるようにするわ。」
「三日で、ですか。」
「当然でしょう? あなたの母は二日でやったわ。」
フィオナはわずかに目を細め――
その口元に、静かな決意の色を滲ませた。
「……わかりました。エルザリア様、どうか厳しくお願いします。」
「いい返事ね。」
霧がふたりの間で弾ける。
「それなら――星霊族の継承者になるために稽古を始めるわ。」
その瞬間、訓練場の空気が震え、星図のような光が一斉にフィオナへ向けて走り出した。
iPad直りましたーーー
お騒がせしてしまい申し訳ないです!
ただ、原稿が全て消えてしまった関係でよく内容を編集する可能性があります。ご了承ください。
また毎日投稿が間に合いそうになくなった際にはお知らせさせていただきます。
ただ、今のところ毎日投稿できそうです!
応援の程よろしくお願いします!!




