母の本当の姿
フィオナは双子の肩に手を添えながら、洞窟の中心で静かに立った。
その佇まいは、どこか“この場の空気に飲まれない”落ち着きを持っている。
「……母は、“もう一つの種族”だと……その種族とは、いったい何なのですか?」
感情は抑え、淡々と。
必要な情報を正確に求める声音だった。
エルザリアは短くため息をつき、言う。
「——《星霊族》。」
空気がひやりと凍る。
フィオナは瞬きひとつでその重さを受け止めた。
「星霊族は、世界の理に干渉できる唯一の種族だった。存在・因果・運命……本来触れてはならない領域にね。」
「……それで、私の魔法がそのような性質を持つのですね。」
フィオナは落ち着いた声で言う。
自分の力について、恐れより先に分析が走っている。
エルザリアはわずかに驚いた。
「……気づいていたの?」
「……いいえ、ですが……今まで周りのものとは違うと言う認識はありましたから……」
フィオナの目は静かで、思考の光が宿っている。
「これが……星霊族の魔術。」
「そう。あなたの《星環収束》はまさにそれよ。」
エルザリアはわずかに目を伏せる。
「ティアナは必死で隠したの。あなたが星霊族の血を継ぐことを、王族に知られないように。」
「理由は、察しがつきます。」
フィオナは淡々と言う。
「“利用価値”が高いと判断されれば、守られないどころか、道具にされる。」
「……その通りよ。」
エルザリアは、フィオナの理解の速さに少し沈痛な笑みを浮かべる。
「存在を削る力は、防御不能。どんな魔族も、英雄も、結界も意味を成さない。だから王族はその血を欲しがり……星霊族は迫害された。」
「母は、その血を継いでいた……。」
フィオナは目を閉じて短く呼吸を整える。
悲しみはある。
しかし、それを表に出すことはしない。
「ティアナはね、あなたに“普通の人生”を与えたかった。そう言っていたわ。彼女の判断は、親として正しい。」
エルザリアの目が細められる。
「あなた……強いわね。」
「私が強かったのではありません。母が……そう育てたのでしょう。」
その言葉は涙で濁らず、澄んだ声だった。
「……やっぱりあなたは、ティアナの娘ね。」
フィオナは静かに顔を上げた。
「……っエルザリア様。母の最期も……星霊族の真実も。すべてお聞きします。」
「その覚悟でいいのね?」
「はい……覚悟など、とうに決めています。——知らなければ、守れないものがある。」
エルザリアは満足そうに微笑んだ。
「分かったわ。では、ティアナが最期に戦った相手……そしてあなたが継ぐ力の意味を話しましょう。」
霧の結界が静かに揺れる。
「フィオナ、あなたは——星霊族の最後の継承者。」




