エルザリアとの出会い
双子を抱きしめたまま、フィオナは森の奥へ目を向けた。
――ざ、ざ……。
草をかき分ける音。
空気がひどく冷たくなる。
霧の奥から、黒い影が滲み出るように姿を現した。
歪んだ四足の獣。目だけが血のように赤く光っている。
魔族。それも、追跡に特化した“影喰い”。
「り、りーりあ……こわい……っ」
「やだ……やだ……くる……」
双子が震えてフィオナにしがみつく。
フィオナは片手を上げ、息を吸った。
胸の奥で魔力が脈動し、空気が震える。
「大丈夫よ、安心して。」
影喰いが低く唸り、跳躍した。
霧を切り裂き、こちらへ一直線に飛びかかる。
「――《光環結界》!」
フィオナの足元に光が走り、黄金の円陣が展開する。
魔族がぶつかる瞬間、弾かれたように後方へ吹き飛んだ。
だが影喰いは動きを止めない。
霧の中に溶け、次には背後から牙を剥いて迫る。
フィオナは魔力を指先に集中させ、勢いよく振り返った。
「――《雷鎖》!」
空気が青白く裂け、雷の鎖が走る。
魔族の身体に巻きつき、電撃が迸った。
影喰いの悲鳴が森に響く。
黒い霧が確かに掻き消えようとしていた。
フィオナはさらにもう一段階、魔力を引き上げる。
背後で双子が息を呑んだ。
「おねえちゃん……つよい……」
影喰いが最後の力で跳ね起きる。
その牙がこちらへ届く――
フィオナは真上へ手を掲げ、
「――《氷の槍》!!」
氷の矢が無数に空から雨のように降り注いだ。
影喰いは悲鳴を上げる暇もなく、光の中に飲まれて霧散した。
森に静寂が戻る。
フィオナは静かに振り返る。
「もう大丈夫よ。ふたりとも、怪我は――」
言い終える前だった。
すぐ後ろの霧が、ふっと揺れた。
気配もなく現れたその人影を見て、フィオナの魔力が一瞬で収まる。
長い銀髪。
深い赤の瞳。
霧をまとって歩くような静けさ。
「……エルザリア・セリクス様……?」
女性は軽く顎に手を添え、足元の黒い残滓を見つめた。
「ふむ。影喰いを単独で……しかもこの森の中で、ここまで綺麗に仕留めるなんて。」
そしてフィオナへ視線を向ける。
「……どうやら、来る必要はなかったかもしれないわね。」
その声音は冗談めいているのに、どこか誇らしげでもあった。




