決意を胸に
この手紙の最後に気になることが書いてあった。
モシワタシガシンダラエルザリアサマヲオトズレテ。マヨイノモリニイルカラ…………アノカタハスベテヲシッテイルーーー
あの方ってこの人は誰なのだろう…………
「叔母さま、エルゼリア様という方を知っていらっしゃいますか?」
「エルゼリア……叔母さまのことかしら……?」
叔母さまの叔母さまということは…………
「セリクス公爵のご令嬢ですか!?」
魔術好きでエルザリア・セリクス様を知らないものなどいないだろう。
ただ……セリクス公爵のご令嬢の話は聞いたことなどない。
叔母の声が少し遠くなる。
「けれど、叔母さまら十数年前に宮廷を離れてしまった。最後に聞いたのは……“迷いの森に身を移した”という噂だけ。」
「迷いの森……」
「人の立ち入れぬ地だけれど、古くは“知の森”と呼ばれていた場所よ。どういう原理かはいまだにわかっていないけれど強い魔力を持つ者だけが道を見つけられると伝えられている。」
叔母はフィオナを見つめる。
「あなた……行くつもりなのね。」
フィオナは静かに頷いた。
「ええ。お母様の手紙に、そう書かれていました。
“あの方はすべてを知っている”と……きっと、母の残した真実がそこにあります。」
「危険な道になるかもしれないわ。」
「それでも、確かめたいんです。母が最後に託した“願い”を。」
封を閉じた手紙を胸に抱く。
指先には、もう震えはない。
「お母様が遺した想いの続きを、わたしが見届けます。」
夕暮れの光が差し込む。
その背を照らす藤色の空は、どこかあの日の手紙と同じ色をしていた。




