母の最後の手紙
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「その後のことは、あなたも知っているわね。」
叔母は立ち上がり、背筋を伸ばした。
「研究者たちは全員処刑。前国王であった私の父と母、そして妹は公開処刑。そして――国外追放されていた私が、王座につくことになった。」
これが真相だった。
「……フィオナ」
呼ばれた名前に、フィオナは足を止める。
振り返ると、叔母は机の引き出しをゆっくりと開けていた。
そこから出てきたのは――
淡い鮮紅色の封蝋が施された、一通の封筒。
“懐かしい”とさえ思ってしまう、この感覚は――いったい。
「……それは」
「ティアお姉さまから、預かったの。」
叔母の声は、震えていた。
「あなたが拐われてから、ティアお姉さまはわかっていたのよ。“自分は戻れないかもしれない”って。」
フィオナの呼吸が止まる。
「その時、お姉さまは言ったの――『もし私が戻らなかったら、この手紙をフィオナに渡してほしい。』」
叔母は、ゆっくりとフィオナの前に立つ。
「だから、渡せなかった。あなたはこの真実を知るには早いと思っていたから。」
フィオナは言葉を返せない。
手が、冷たい。
「でも――」
叔母は優しく、しかし強く言った。
「今のあなたは違うわ。奪われたものを追うために歩き出す覚悟を持っている。」
封筒が、フィオナの手にそっと置かれた。
指先が震える。
封を開けると、そこには母の字で文字が書かれていた。




