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ありがとうを

「……っ」

ティアナの目が、開く。

天井が、見える。

玉座の間の、天井。


「……ここは」


身体が重い。全身が痛い。


だが――


心が、軽い。

何かが、戻ってきた。大切な、何かが。


そして――耳に、届く。


「フィオナ!」

「目を開けろ、フィオナ!」


王の、必死な声。


「……?」


ティアナは、身体を起こす。

視線の先に――血の海の中に横たわる、フィオナ。

王が、必死に治癒魔術をかけている。

だが――

傷が、塞がらない。

腹部の傷から、血が止まらない。


「……フィ、オナ…?」


ティアナの声が、裂ける。

這うように、娘に駆け寄る。


ティアナは、フィオナの傷を見る。

影の長剣が貫いた、傷。

自分が――娘に、負わせた傷。


「……私の、せい」


涙が、零れる。


「私が……私が、やったのね………」


両手を、フィオナの傷に当てる。


「……ティナ?」


王が、訝しむ。

だが、ティアナは答えない。

目を、閉じる。

星霊術を発動させる。


自分の中に、まだ残っている魔力。

それを、すべて。


「……っ」


星霊術が、発動する。

治癒魔術よりも、強力な。

白い光が、フィオナの傷を包む。

傷が、塞がっていく。

内臓が、修復されていく。

出血が、止まる。


「……ティナ!」


王が、気づく。


「やめろ、ティナっ……魔力を使いすぎている……!」


だが、ティアナは止まらない。

すべての魔力を、注ぎ込む。

自分の命を、削りながら。


「……っ、ぐ――」


ティアナの顔が、青ざめる。

身体が、震える。

魔力が、底をつく。

それでも――

「まだ……まだ、足りない……」


さらに、魔力を絞り出す。

生命力そのものを、変換して。


「ティナ、やめろ……!」

王が、腕を掴む。

だが、ティアナは振りほどく。


「いやよ……私のせいで……この子の未来を……奪いたくないっ………」


星霊術が、さらに強まる。

フィオナの傷が、完全に塞がる。

呼吸が、安定する。

フィオナの血色が良くなる。


「……これで」


ティアナの声が、掠れる。


「これで……大丈夫…」


星霊術が、消える。

ティアナの身体が、倒れる。


「ティナっ!」


王が、支える。

ティアナの顔は、白い。

呼吸が、浅い。

魔力や生命力が――


尽きかけている。


「……フィオナは」


ティアナは、弱々しく娘を見る。

フィオナは――目を、閉じたまま。

だが、呼吸は安定している。

傷は、完全に塞がっている。


「……よかった」


ティアナは、微笑んだ。

涙を流しながら。

「たすけ……られて……」

そして――

フィオナの目が、わずかに開いた。

「……お、母……様……?」

か細い、掠れた声。

ようやく絞り出した、声。

「フィ、…オナ」

ティアナは、娘の手を握る。

「……っ」

フィオナの目から、涙が零れる。

「お、かあ……さま……おかあ……さま……」

「ええ――」

ティアナは、娘の頬を撫でる。


「ごめ、んね………フィ…オナ」

フィオナが、首を振る。

わずかに。

涙が、溢れる。

「ちが……う……お母様の……せい……じゃ……ない……私……が……さらわれ…た、から……わたし…こそ、ごめん、なさい………」


「そんな……ことない……あなた、が……いきていて……くれて、よかった………」


涙で視界が揺れる。

息が、苦しい。

だが、言わなければ。


「私……を……産んで……くれて、ありがとう……育てて……くれて……ありがとう……」


涙が、止まらない。


「お母様の……娘で……よかった……」


ティアナの目から、涙が溢れる。

「……っ……わた、しこそ……あなたの、ははに…なれて――、幸せだった――」

フィオナの手を、強く握る。

だが――

その手が、震えている。

力が、抜けていく。

「お、母……様……」

フィオナが、必死に手を握り返す。

弱々しく。

「やだ……いっしょに…かえろ………まだ……一緒に……」


「ごめ、んね……」

ティアナは、弱々しく微笑んだ。

ティアナの呼吸が、さらに浅くなる。


「……フィオナ……お願いが……あるの――」


「なん……でも……」


フィオナが、必死に答える。


「魔王――」


ティアナは、掠れた声で言った。


「魔王も――救って、あげて――」


「……っ、え……?」


「あと、1ヶ月…たったら……魔王が…くる……あの薬……魔王にも……効くからっ……」

涙が、零れる。


「魔王も………私と、同じ……魔族に……されただけ――」


「それと……幸せになりなさい……あな、たのしあわせを……ねがっているわ……」


「お、母……様……」

フィオナの涙が、止まらない。


ティアナは、娘の頬を撫でる。

最後の力を振り絞って。


「……わかった……」


フィオナは、頷いた。

ティアナは、微笑んだ。

「優しい子……あなたは………本当に、優しい――」


そして――

ティアナは、自分の夫である国王を見た。

「……アクア」

か細い、声。

「ティナ……」

王の声が、震える。

「喋るな……体力が――」


ティアナは、弱々しく首を振った。

「言わせて……最期に――」

涙が、零れる。

「ごめんなさい……こんな形で………別れることに、なって――」

「……っ」

王の目が、赤くなる。

「あなたと、出会えて……幸せだった――」

ティアナは、微笑んだ。

「あなたと……家族に、なれて…」


「本当に………幸せだった――」


「ティナ――」


王の声が、掠れる。

「フィオナを、立派に…そだ、ててくれて…ありがとう……これからも……お願い、ね――」


「……ああ」

王は、頷いた。

涙を堪えながら。

「必ず……」


「ありがとう……」

ティアナの手が、震える。

視界が、霞む。

「愛してるわ……ふぃお、な…あくあ……」


娘を見る。

そして王を見る。


ティアナの手が、力なく落ちた。

目が、閉じる。

呼吸が、止まる。


「……お、母……様……?」


フィオナの声が、震える。


「お、母……様……」

「ねえ……」


涙が、溢れる。

声にならない、叫び。


「お、かあ……さまああああ……」


か細い、掠れた声。


だがその声は、玉座の間に、響いた。


王は、静かに――

ティアナの目を、閉じた。

そして、自分の目を、覆った。

肩が、震えている。

「……すまない」

王の声が、震える。

「すまない、ティアナ……また守れなくて………すまない……」

フィオナは、ただ――涙を流し続けた。

母の手を、握りしめたまま。

離さない。

離せない。

「お母様……お母様……」


何度も、何度も。

呼び続ける。

だが答えは、返ってこない。

王もティアナの手を、握った。

二人で最愛の人を見送った。

玉座の間に静寂が広がった。

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