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隠された真実

「……ティアお姉さまは、誰からも愛されて生まれた子ではなかったの。」


 その一言が、空気を変える。


「正妃の子の身代わりとして、生まされた子。」


「……身代わり……?」


「ええ。本来 “存在してはいけない” はずの子だった。」


 エレノアの声は震えていない。

 けれど、その瞳は泣いていた。


「お姉さまは王城で育った。でも、『王女らしく』なんて扱われていなかった。使用人よりも粗末に。誰にも名前を呼ばれず。誰にも抱かれず。」


 フィオナの喉がきゅっと閉じる。


「……そんな扱い……」


「ええ。でも、お姉さまは泣かなかった。自分が誰にも望まれていないことを、ずっと知っていたから。」


 エレノアは続けた。


「ティアお姉さまは、この国に利用された。魔王とエルフの力を掛け合わせ、兵器を作るために。」


「……お母さまが、兵器……?」


「何年も研究は続けられていたのにティアお姉さまには薬が効かなかった。だからあの日――“役に立たない”と判断されて、追放された。それでもティアお姉さまは諦めなかったわ。」


 叔母はゆっくりと、記憶をなぞるように語った。


「ルチアナ王国で“天才魔術師”として名を馳せて……愛する人とも結ばれて……あなたも生まれて。ティアお姉さまは、あの短い間だけは、本当に幸せだったの。」


 フィオナは唇を噛む。


「でも、その幸せは長く続かなかった。」


 叔母の瞳が痛みを湛える。


「あなたが五つを迎える直前。ヴィルドの研究者たちが、あなたを拐ったの。」


「……っ」


「当時、ルチアナ王国は飢饉と戦争で揺れていた。国は弱り、王宮の守りも万全ではなかった。“返してほしければティアナ王女を連れてこい”――そういう取引だったの。」


「まさか……お母さまは……」


「ティアお姉さまは迷わなかったわ。あなたを取り戻すために、たったひとりでヴィルドへ向かった。」

 

 叔母は視線を伏せる。


「ただ――アクアスティード殿下には一言も告げずに。」


 フィオナの呼吸が止まる。


「殿下が真相を知った頃には、ティアお姉さまはもうヴィルドの領内にいた。殿下は激怒なさった。王太子妃と王女を攫われたのだから、これは戦争どころではない。一週間以内に殿下自ら軍勢を率い、あなたたちを迎えに向かわれた。」


 叔母の声は淡々としているのに、痛みだけが濃い。


「研究者たちは “エルフが魔族へと堕ちる過程” を知りたかった。実験体が必要だった。だから、ティアお姉さまを呼び戻すために、あなたをさらった。」


「けれど効かなかった。ティアお姉さまは“自ら解毒薬を作っていた”から。」


 フィオナの胸が熱く締め付けられる。


「それでも研究者たちは諦めなかった。アクアスティード殿下が城門を破るその直前――彼らは刺客を、あなた のもとへ送った。」


 叔母は、息を詰まらせる。


「あなたを守ろうとしたティアお姉さまは――その刃を、自分の身体で受けた。」


「……あ……」


 声にならない音が、喉で崩れた。

 その言葉は、刃物よりも痛かった。

 

「ティアお姉さまは、その場で息を引き取られたらしいわ。」


 そして、叔母は静かに続ける。


「あなたはその瞬間、魔力暴走を起こした。国を、城を、空気さえも焼き尽くすほどの。」


「……」


「その力を抑えたのは、アクアスティード殿下よ。あの人はあなたを抱きしめて、ただ名を呼び続けた。」


 フィオナの指が震える。


「……お母さまは、最後まで……私を……」


 言葉は涙に溶けて、続かなかった。


 叔母はそっと肩に手を置く。


「ティアお姉さまは、あなたの未来を残したのよ。たとえ自分の命を代償にしても。」


 しばし、静寂。

 蝋燭の火がゆらりと揺れる。

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